働く女性の健康課題
2020.07.20
- メンタルヘルス
みなさまは働く女性がどのような健康課題を抱えているかご存知でしょうか。
近年は働く女性の割合が上昇し、女性の健康課題が着目されてきています。
今回は働く女性の健康課題について解説します。
日本における働く女性の増加
日本では、2016年に全就業者に占める女性の割合は44%となり、欧米諸国とほぼ同水準となっています。働く女性が増加したことで、管理職に就く女性も増えていますが、管理職の女性の割合は、2016年で13.0%となっており、欧米諸国やシンガポール、フィリピンといったアジア諸国と比べると低い水準となっています。女性の就業率を年齢階級別にみていくと、約30年前は結婚・出産・育児の時期となる25歳から44歳で就業率が大きく低下する、いわゆるМ字カーブになっていましたが、近年はМ字カーブの底は大幅に上昇し、全体的に大きく上方にシフトしています。この変化は、仕事と、家庭や育児を両立する女性が増加したこと、出産年齢が上昇していることを表しています。
この背景として、女性が職業を持つことに対する意識が女性自身だけでなく男性を含め,社会全体として変化してきたこともあり、共働きの家庭も増えています。
体調不良による労働損失
就業者の健康管理という課題は、どの時代にもあるものでしたが、近年は「健康経営」という言葉も聞かれるようになり、より一層重視されてきています。
働く女性が増加したことで、企業の健康に対する取り組みの在り方も変化しています。
以前はメタボリックシンドローム対策が中心でしたが、女性の健康に対する取り組みを増やすことで、企業のさらなる活性化に繋がるのではないかという考えもあります。
健康状態の不調が労働者のパフォーマンスに与える影響としてアブセンティーズムとプレゼンティーズムという2つの概念があります。
アブセンティーズムとは、病気などによる欠勤や休職などで業務につけない状態となったために、失われる生産性のことです。例えば、風邪による欠勤、がん治療による欠勤、うつ病による休職等です。
一方でプレゼンティーズムは、出勤していても体調が万全でないために失われる生産性のことで、肩こりや眠気、頭痛、二日酔い、花粉症、ストレス等、様々な原因があります。
アブセンティーズムとプレゼンティーズムの労働損失を比較した経済産業省の調査によると、プレゼンティーズムによる損失の方が数倍以上大きいことがわかっています。例えば、女性特有の月経随伴症状などによる労働損失は4,911億円と試算されているのです。健康経営を通じて女性の健康課題に対応し、女性が働きやすい環境の整備を整えることが、生産性向上や企業業績向上に結びつくと考えられるというメッセージが2019年に経済産業省より出されています。
女性の健康問題はどのようなことか
2018年に実施された「働く女性の健康推進に関する実態調査」では、女性従業員の約5割が女性特有の健康課題などにより就業時に困った経験があると回答していたそうです。女性特有の健康課題として最も多いのが月経関連の症状や疾病で7割、次に多いのが月経前症候群(PMS)で4割となっています。一方で、管理職の約3割が女性特有の健康課題への対応に困っていると回答しています。
つまり、女性特有の健康課題に対するサポート体制は十分とはいえず、現場では、対応方法が明確にされていないことによって、雇用者・被用者ともに困るようなことが起こっているといえます。
一方で、女性特有のがんは若年化が進んでおり、国立がん研究センターの調査では、20代~50代半ばまでは女性の方が「がんになる割合」が高くなっています。特に、部位別にがんの罹患状況をみていくと、女性では、40歳代では乳がん、子宮がん、卵巣がんの罹患が多くを占め、年齢が上がるにつれて、その割合は減少し、消化器系のがん(胃、大腸、肝臓)と肺がんの割合が増加します。
がん医療の進歩により早期がんは多くの場合治すことが可能となり、がんの5年相対生存率は年々上昇しています。働く女性ががんになるケースも少なくなく、その場合にはがん治療と仕事の両立が必要となります。
月経困難症や月経前症候群とは
月経困難症とは、月経の直前または開始とともに症状が発現し、月経の終了前あるいは終了とともに消失するのが一般的です。下腹痛、腹痛など疼痛を主症状とする症候群ですが、単なる痛みだけでなく、悪心・嘔吐・下痢・頭痛など多様で、不快な症状を伴うこともあります。
月経困難症は、大きく2つに分類されます。1つめは、痛み等の原因となる器質的病変が認められない原発性月経困難症です。2つめは、子宮筋腫や子宮内膜症などの器質的な病変が認められる続発性月経困難症です。
どちらも適切な治療を行なうことにより、苦痛症状が緩和されることもありますので、症状が続く場合には一度婦人科を受診することが望ましいです。
それでは、月経前症候群とはどのような病気でしょうか。
PMS(Pre Menstrual Syndrome)は、月経前1週間に以下のような症状が複数存在し、月経とともに消失するという周期性が認められます。症状は、腹部緊満感・肩こり・頭痛・むくみ・体重増加・便秘・乳房緊満感といった身体的症状と、イライラ感・怒りやすい・無気力・集中力低下といった精神的症状です。PMSは、20歳前半から閉経までの2~10%の女性に起こるとされていますが、明確な原因はわかっていません。ホルモンバランスや食事・ライフスタイルなどが影響しているのではないかともいわれています。
今回は女性の健康障害についてご紹介しました。
働いている女性がどのような健康課題を抱えているかを知っておくことは、本人・周囲にとっても大切なことです。体調が優れない様子の女性に、少しの気遣いが出来るかも知れません。女性が働きやすい環境を整えることが、社内の風通しを良くし、結果的に企業が向上することに繋がっていくと良いと思います。
著者:金子 綾香
保健師
医療法人社団 平成医会
当コンテンツの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
コラムについてのご質問やご意見は、メールでお寄せください。お電話でのお問い合わせは恐れ入りますがご遠慮ください。