歩くことで得られる心身の健康
2020.09.28
- メンタルヘルス
日本人はどのくらい歩いているか
厚生労働省の平成30年国民健康・栄養調査によると、成人の1日の平均歩数は、男性で 6,794 歩、女性で 5,942 歩であり、この10年間でみると、男女ともに有意な増減はありませんでした。
但し、「健康日本21(第二次)」の目標として挙げている日常生活における歩数の増加の目標値は、男性で 9,000歩、女性で8,500歩であるため、2,000歩ほど足りないことになります。成人の男女は1分間に100歩程度歩くとされていますので、今よりも20分ほど多く歩くことが望ましいといえます。
活動量と死亡率の関連
国立がん研究センターが1日の平均的身体活動量(METs)と死亡率の関連を調べたところ、男女ともに身体活動量が多い群ほど、死亡リスクが低下していたそうです。平均身体活動量で4群に分け、最小群の死亡リスクと比較した場合、最大群の死亡リスクは、男性で0.73倍、女性で0.61倍と有意な低下を認めています。しかし、肥満度を示すBMI(普通体重は18.5以上25未満)で分けてみると、BMIが27より大きい群では身体活動による死亡リスク低下の度合いが小さくなっていました。このことから、身体活動量が多い方が死亡リスクを下げることができ、BMIは27を超えないようにすることが望ましいということがうかがえます。
歩くことで得られる様々な効果
1.生活習慣病予防
みなさまもご存じの通り身体活動・運動が不足している状態では消費エネルギーが少ないために、肥満、特に内臓脂肪型肥満が起きやすくなります。それによって高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の発症リスクが高まります。
生活習慣病予防のためには、身体活動量のアップ・運動習慣を持つことが大切です。保健指導の中で運動習慣を提案するのはなかなかハードルが高いことです。運動と聞くと、場所や時間、相手、必要な用具を考えるところから始めなければなりません。それに比べると、歩くことは特別な準備が要らず動きやすい服装と歩きやすい靴があればいつでもできるという点で、ハードルが低いと思います。
2.便秘解消
排便は腸の蠕動運動によって起こっています。しかし、身体活動・運動不足等によって腸の動きが弱まることで、便秘となるのです。適度な運動で腹筋を鍛えていくことも便秘解消につながります。腸の機能は自律神経にコントロールされており、副交感神経が優位になることで腸は活発になり、反対に交感神経が優位になると腸の動きは弱まってしまいます。
歩くことでゆったりとした気分になり、副交感神経が優位に働くことは便秘解消にも効果的です。
3.ストレス解消
歩くことはストレス解消にも役立ち、気分を明るくする作用もあります。一定のリズムで体の筋肉を動かす有酸素運動は、脳の神経伝達物質のひとつである「セロトニン」が活性化することが分かっています。セロトニンが増えると気分が落ち着き、集中力も高まるといわれています。不安や抑うつ感なども改善され、元気が出てポジティブな気分になるそうです。
また、歩くことで緊張が和らぎ、脳内で働く神経伝達物質のひとつである「エンドルフィン」の分泌も高まります。エンドルフィンは脳内麻薬とも言われ、鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などが得られやすくなります。これらによってストレスへの耐性が高まり、うつ病の予防効果も期待できます。
さらには頭がすっきりすることで、新しいアイディアも生まれやすいともいわれています。
4.骨を強くする
骨を丈夫にするためにはカルシウムをとることが必要ですが、それと同じくらい身体を動かすことが大切です。骨には負荷がかかると、その負荷に応じて骨自身を強くする仕組みがあります。運動をするとその刺激を受けて骨にカルシウムが沈着しやすくなったり、血流が良くなることで骨をつくる細胞が活発になります。骨にかかる負荷が大きいほど骨密度を上げる効果は高くなりますが、過剰な負荷によって身体を痛めてしまうリスクもあるため適度な負荷で長く続けていくことのできる歩くことは、骨を強くすることに非常に有効です。さらに、太陽光を浴びることで体内でビタミンDが作られ、カルシウムの吸収を促進させてくれるという効果もあります。
ここまで、歩くことの効果について解説しましたがウォーキングと歩くことの違いを知っていますか。
ウォーキングは日常生活の歩きや散歩とは異なり、”健康のため”に歩くという目的をもって行うことです。一方、散歩の主な目的は“気分転換”です。
それでは、効果的な歩き方についてみていきましょう。
理想的なウォーキングとは
有酸素運動特有の効果が得られるのが「早歩き」です。ゆっくりと歩いているだけでは、足を引き上げるのに必要な大腿部の筋肉や体幹部が使われていないからです。中高年を過ぎてこれらの筋力が低下してしまうと足が上がらなくなって転倒しやすくなったり、すり足になったりするケースがあります。そのため、今のうちから足を引き上げて早歩きをする習慣を作ることが重要です。
歩く速さだけではなく、歩幅も重要となってきます。大きな歩幅で歩く方が効果的です。普通に歩く歩幅よりも10~15cm大きく大股歩きを意識することが高い運動効果となります。
ウォーキングの基本姿勢は真っすぐに前を見て背筋を伸ばし、肘を曲げて軽く腕を振り、かかとから着地をすることです。ぜひご自身の姿勢を振り返ってみて下さい。
歩くことの様々な効果をご理解いただけましたか。
ただ歩く散歩よりもウォーキングの方が有酸素運動としての効果は大きくなります。しかし、散歩であっても長時間行なうことで効果は得られます。
歩くことは最も身近な身体活動です。特別な準備が要らずに、やる気になれば、誰でもできるのです。ぜひ今日から始めてみませんか。
著者:金子 綾香
保健師
医療法人社団 平成医会
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