スポットライト効果が及ぼす効果
2024.07.30
- コラム
- メンタルヘルス
スポットライト効果とは
スポットライト効果とは、他人が自分の外見、行動、行為に気づき、注意を払う度合いを過大評価する認知バイアスのことです。このバイアスの特徴は、自分の外見や行動、言動を他人が実際以上に意識していると思い込んでしまうことです。これは、自意識過剰や恥ずかしさ、他人が自分の行動を判断・評価しているという思い込みにつながります。自分が世界の中心となっていて、誰もが自分に注目しているという信念によって引き起こされるようです。
例えば、今日の服は似合っていないなと思いながら職場に出勤することはないでしょうか。そのことを引け目に感じながら、同僚に会って挨拶し、仕事を始めます。翌日、その同僚に「昨日の服装、イマイチだったよね。今日は決まってるよね!」と言ったところ、そもそも同僚は昨日の服装を覚えていなかったとします。同僚がしっかりと見てくれていなかったことを残念に思うかもしれませんが、それはあなたにスポットライト効果が起こっている可能性があるのです。
スポットライト効果に関する研究
心理学者のトーマス・ギロビッチ氏は、この心理を確かめるために実験を行いました。大学生の実験参加者を109人募り、その中から学生15人を選びました。その15人には、1人ずつ実験控え室に来てもらい、バリー・マニロウという甘いマスクの男性歌手(若者に「ダサい」と思われていた歌手)の顔が大写しになっているTシャツを着てもらいます。このTシャツを着ると恥ずかしく感じることは事前調査で確認済みでした。この状態は、自分に注意が向いた状況を作りだすことが目的です。人々がアンケートに答えている部屋を用意して、そこにTシャツを着た被験者が入り、どの程度注目されるかを調べます。しばらくして被験者は再び、人々の前を通って部屋から出ていき実験終了です。その後、部屋にいた人にTシャツの顔写真に注目したか確認したところ、注目していた人は全体の21%でした。ところがTシャツを着た被験者自身は、46%の人に注目されたと感じたと回答したのです。
この実験には、全体の様子を見届ける観察者もいて、Tシャツに注目した人がどの程度いたか尋ねたところ、推定値は22%と、部屋にいた人の回答(21%)とほぼ同じでした。つまり、自分が注目されていると感じる割合は、客観的な事実の2倍以上だったわけです。
この研究では、スポットライト効果はある程度現実的状況に基づいていそうだということも述べられています。なぜなら 、ターゲット参加者の正解の予測値と、観察者の成績との間には有意な相関(r = 0.50)があったからです。つまり、観察者がターゲット参加者をまったく見ていなさそうなのにターゲット参加者が高い予想値を回答したり、あるいはその逆に観察者がターゲット参加者をよく見ていたのに低い予想値を出すといったことはあまり起こっていなかったのです。もし、現実とまったく関係なくターゲット参加者が正解率を予測していたら、これほど高い相関係数はでません。
人は集団の中で暮らす生き物であり、自分以外の誰かにとって、どういう存在かという基準で物事を考えながら、日々を生きる習性があります。そのため、人目が気になるのです。自分をよく見せたいためにありとあらゆる日常の行動が人目によって突き動かされます。
しかし、自分が気にしているほど周囲の人はなんとも思っていないものです。誰もが同様に、「自分は他人にどう思われているか」を気にしながら生きているからです。他人のことを気にする余裕がないともいえます。特別好きな人や嫌いな人でもないかぎり、自分ごとのように他人を気にすることにエネルギーを注ぐことは難しいといえます。また、他人の顔色を気にし過ぎるのは時間の無駄になったり、精神衛生上もよくありません。それよりも、自分に目を向けて、なりたい自分に近づく努力をする方が、余計な心配もなくなり、自分のためになります。
この心理は現実社会でもよく見受けられます。例えば「会議での発言が無視され、正当に評価されなかった」と不満を持つケースです。これは、自分の発言内容は注目されていると思い込んだ「スポットライト効果」の影響かもしれません。「スポットライト効果」の観点から、自分と他人との気持ちにはギャップがあることを知っておくことで、職場や学校、家庭で円滑な人間関係を築くために役立つのではないでしょうか。
著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長
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