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自律神経失調症について~疾病理解~

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自律神経系がうまく機能しなくなることで自律神経失調症が引き起こされます。その原因は、ストレスや過労、環境要因などがあげられます。また、様々な症状がでることから、内科を受診する方もいらっしゃいますが、内臓の検査をしても特に病気や異常がみつからないため、原因が分からずにいくつかの科を受診することになることがあります。これも自律神経失調症の特徴といわれています。 今回は自律神経失調症を解説します。
メンタルヘルスコラム:自律神経失調症について~疾病理解~

自律神経失調症とは

自律神経失調症とは、交感神経と副交感神経のバランスが乱れて不調が起こるさまざまな症状の総称です。「自律神経」は、意思に関係なく刺激に反応して体の機能をうごかします。

交感神経:活動や緊張、興奮状態に関連し、心拍数や血圧を上げる役割をします。
副交感神経:リラックスや休息、消化などに関与し、体を落ち着かせる働きをします。

日本心身医学会では、自律神経失調症を以下のように定義しています。

「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、
かつ顕著な精神障害のないもの」

不定愁訴:検査をしても客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからないこと。
器質的病変:症状が臓器などの形態的異常にもとづいて生じている状態。

そのため、自律神経失調症でみられる不調は、特定の原因がわからず、不調が続いている状態ということになります。

自律神経失調症の主な症状

自律神経は全身の器官をコントロールしているため、バランスが崩れると様々な症状が現れます。

具体的には、以下のような症状があります。(このうちのどれかがあらわれるというより、複数の症状が同時にでることもあり、症状には個人差があるため、家事や仕事はできるという段階から寝込んでしまうような人もいます。)

〇身体症状
倦怠感、めまい、ふらつき、のぼせ、冷え、頭痛、耳鳴り、動悸、関節の痛み、
便秘・下痢、生理不順、口や喉の不快感、頻尿・残尿感、発汗・微熱、肩凝り

〇精神症状
イライラする、不安感、焦燥感、疎外感、不眠、記憶力や集中力の低下、
感情の起伏が激しくなる

自律神経失調症の種類

自律神経失調症は、症状や原因によって4つのタイプに分けられます。

①本態性型

生まれつきの体質によって自律神経のバランスが乱れやすいことから生じるタイプです。
もともとの体質的に自律神経の調節機能が乱れやすく、低血圧や虚弱体質、体力に自信がない人などに多いといえます。体質改善のために生活習慣の見直しが必要です。

②神経症型

心理的な要因によって生じるタイプです。自分の身体の不調に敏感で感受性が強く、些細な精神的ストレスであってもすぐに体調を崩してしまいがちです。感情の移り変わりが身体的な症状として現れます。

③心身症型

自律神経失調症に最も多いタイプで、仕事や人間関係など日常的なストレスによって生じます。
生真面目で責任感が強い性格に多いタイプです。身体症状、精神症状ともに見られ、几帳面で真面目な人がなりやすいといわれています。

④抗うつ型

ストレスを積み重ねていくことによる「うつ症状」によって生じるタイプです。
やる気が起きない、気分が沈んでいるといったうつ症状がみられます。心身症型自律神経失調症が進行するとこのタイプになるといわれています。身体的にも食欲のなさや頭痛、微熱、不眠などの症状が現れます。几帳面で完璧主義の人がなりやすいといわれています。

メンタルヘルスコラム:自律神経失調症の原因

自律神経失調症の原因

自律神経失調症の原因は以下のようなものがあげられます。

ストレス

ストレスが過剰にかかることで悩みや不安が大きくなり、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。
梅雨時期などの気圧の変化や心身の病気、怪我、災害などによっても生じることがあります。
個人差もありますが、性格や考え方などが影響することもあります。

生活習慣

交感神経と副交感神経のバランスをとるために、活動的な日中とリラックスする夜間との生活リズムの適切な配分が重要です。夜勤の仕事や残業などによって生活が不規則になると、自律神経の働きにも影響を及ぼします。
不規則な生活は、常に交感神経が優位となる緊張状態になり、副交感神経との切り替えがうまくできなくなってしまうので注意が必要です。

ホルモンバランス

女性の健康は、エストロゲンとプロゲステロンという二種類ホルモンの影響を大きく受けています。
その中でもエストロゲンは、女性らしさをつくるホルモンといわれており、女性の体に大きく作用するものです。女性のライフステージを見ると、「思春期」「成熟期」「更年期」「高齢期」の四つのステージに分けることができますが、それぞれの時期で女性ホルモンに大きな変化が見られます。
妊娠や更年期は大きなホルモンバランスの変化があるため、自律神経失調症の原因になりやすいと考えられています。特に40代を迎えて更年期に差し掛かってくると、ホルモンバランスが大きく変動するため、自律神経の働きを乱してしまうことがあります。

また、前述したストレスや生活習慣などが原因になる場合以外に、パーキンソン病などの身体疾患に伴う自律神経症状、うつ病や不安障害の症状の一部として出現する自律神経症状もあります。

自律神経失調症の治療方法

身体疾患がある場合はそれに応じた治療を行います。
心身のストレスに起因する自律神経の乱れについては、環境調整、薬物療法、心理療法などが行われます。また、本人の体質や性格などにも注目することも重要です。

環境調整

心身のストレスを軽減するための様々な環境調整を行います。まずは十分な睡眠、不規則な生活リズムを整えること、偏った食生活を修正することなどがあげられます。また、飲酒やカフェインの過剰摂取といった習慣にも注意が必要です。

薬物療法

不安感やうつ状態が目立つ場合には、対症療法として抗不安薬や抗うつ薬が処方されることがあります。漢方薬の知識を持つ医師だと症状によっては漢方薬を処方することもあり、あくまでも対症療法のため、生活習慣の改善など環境調整が主となります。自律神経失調症においては、交感神経が常に緊張状態にありますから、薬の作用によって交感神経の働きを和らげる治療を行うこともあります。

心理療法・精神療法

精神的ストレスを生み出してしまう物事の捉え方、考え方を改善していくことでストレスを軽減していく方法です。認知のゆがみを矯正する「認知行動療法」や、ストレスを感じてしまう自分、あるがままの自分を受け入れるという「森田療法」などがあります。カウンセリングなどを通して原因を探り、自身の問題に気づくようにすることも効果的なことがあります。

自律神経失調症は単なる身体の不調と見逃されがちです。症状がなかなか改善しない場合は病院を受診して、適切な治療を受けると良いでしょう。不調を感じたら、まずはその症状に該当する科を受診してみてください。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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