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「課題の分離」が導く人間関係の築き方

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心理学者であるアルフレッド・アドラーは、「すべての悩みは対人関係の悩みである」といっています。 人間関係を円滑にするために有効な考え方に「課題の分離」があります。今回は、この課題の分離について解説し、よりよい人間関係について考えていきます。

メンタルヘルスコラム:「課題の分離」が導く人間関係の築き方

「課題の分離」とは

課題の分離をわかりやすくいうと、人間関係のトラブルが起きたときにそれは自分の課題なのか他人の課題なのかを切りわけて考えるというものです。お互いに相手の課題に踏み込まないようにする事がポイントです。
課題の分離を考えるときには次のような質問が役立ちます。
「その課題の責任を負うのは最終的には誰か」、「その課題の結論をだすのは最終的に誰か」という二つです。
極端な言い方かもしれませんが課題の分離ができていないと、他者の人生を生きることになり得るのです。
他者が自分を認めるかどうかは他者の課題であり、自分にはどうすることもできないことなのです。
課題の分離を実践するときのポイントは、自分の課題を優先することです。他者の課題を解決するためには、時間もかかりますし、それは自分ではコントロールできない領域なことが往々にしてあります。

課題の分離によって、自分の課題しか考えない自己中心的な人が増えるのではないかという問いについてはその逆です。自己中心的な人ほど、自分の課題と他者の課題を混同している傾向にあります。そのため自分の課題を他者のせいにしてしまうのです。
また、人間関係が希薄になるのではないかと心配する人がいるかもしれませんが、その必要はありません。
課題の分離によってお互いが関わらないようにするということではなく、依存したり他者のせいにしない、尊厳のある関係を構築するというものなのです。
他者に操作されたり、他者を操作したりするのは良好な人間関係とはいえません。課題の分離を行い、正しい判断基準を持つことで、ストレスを減らすことが出来ます。

アドラーは「親子こそ課題の分離が大切である」といっています。子どもへの愛情は大いにあって良いのですが、親の理想の押しつけは、他者の課題に土足で踏み込んでいることと同じです。親の理想を押しつけられて育った子どもが大人になって、挫折したときに、「言われたとおりに人生を歩んできたら失敗したので責任を取ってほしい」と言われたらあなたはどうしますか。親には親の課題、子どもには子どもの課題があるのです。

例えば、仕事で給料が上がらないことを不満に思っている人がいるとします。その人は、原因は上司が評価してくれないことだと考えています。これは切りわけて考えると、上司が自分をどのように評価するかは「上司の課題」で、自分の課題は成果を出すことやスキルを上げることです。
このように考えると自分が今すべきことが明確になるとともに、不安になることもないのです。

メンタルヘルスコラム:課題の分離を実践するポイント

課題の分離を実践するポイント

課題の分離を実践するためにはどのようなことを心がければよいのでしょうか。
それは、悩みをコントロールできるかという視点でみることです。分からないときには信頼のおける人に聞いてみるのもよいかもしれません。
自分の努力や心がけ次第で変えられることは自分の課題です。それ以外の相手の気持ちや他者がどう受け止めるかは、自分の努力や心がけではどうにもならないことなので他者の課題です。
自分ではコントロールできないことで悩んでいる場合は、いくら悩み続けても解決する見込みはないものと捉え、意図的に考えないようにすることも必要でしょう。

課題の分離をいくら意識していても、人との関わり合いのなかで生きていくいく以上は他者を全く気にしないということは難しく、知らないうちに他者の課題に踏み込み、自分ではコントロールできないことに悩まされてしまいがちです。
悩んでいることや気がかりなことを書き出し、自分と他者の課題に切りわける作業をすることで、悩みという目に見えないものを可視化することで頭の整理ができます。

「嫌われる勇気」をもつ

仮に落ち込んでいる人がいて、それが他者の課題であれば全く関わらなくてよいということではありません。
これまでお伝えしたように、その悩みについて責任を取るのは他者ですが、頼られればサポートやアドバイスし見守るというスタンスをとるとよいでしょう。他者の課題に介入しすぎると、他者の悩みを抱えてしまうかもしれませんし、他者がその壁を乗り越えることで得ることができたであろう成長を阻害してしまうことになるかもしれません。相手の選択を尊重して、成長し乗り越えられるよう見守ってあげてください。

課題の分離ができそれを行動にうつすためには、嫌われる勇気が必要です。
好かれるためには、自分が犠牲にして相手が喜ぶことをして、相手が好意を持つような人になればよいでしょう。しかし、そのようなことばかりしていると本当の自分がやりたいことと反することになり、自分の意思がない人生になってしまう可能性があります。自由奔放に生きて嫌われようとするのではありません。嫌われることを恐れないで行動する勇気を持つということです。

とはいえ、仕事やプライベートで起こることに課題の分離の考え方をあてはめて行動することは簡単なことではありません。
複雑に思える人間関係をシンプルに考えたいときや考え方の切り口を変えたいときには、課題の分離を思い出してみてください。皆さまの人間関係のストレスが少しでも軽減すれば幸いです。


著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師


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