最適な睡眠時間と良質な睡眠
2019.11.05
- メンタルヘルス
睡眠には、脳と身体の休養、疲労回復、記憶の再編成、免疫機能向上など多くの役割があります。
睡眠不足によって、「疲労感」、「情緒不安定」、「判断力や集中力の低下」などの異常をきたし、それがミスや事故に繋がってしまうこともあります。
アメリカで実施された、100万人以上の被験者を対象とした調査では、睡眠時間が7時間前後に該当する人ほど、死亡率が低い傾向にあることが分かりました。さらに、日本国内で行われた10年間にわたる追跡調査でも、同様の結果が得られました。睡眠時間と心臓病の発生率を調べた研究では、7〜8時間睡眠の人が最も心臓病になりにくいという結果が出ており、健康との関連性も大きいようです。
7~8時間睡眠が最適な理由として、成長ホルモンの分泌にも関与しています。アンチエイジング系ホルモンの中心とも言える成長ホルモンは、1日の分泌量の約7割が睡眠中に分泌され、そのうち約7割が眠り始めの2、3時間に分泌されます。その後全身に行きわたり、約7時間の睡眠で十分な機能を発揮します。
体内時計とメラトニン
私たちは、「メラトニン」という睡眠ホルモンの一種により、正常な体内時計を保っています。メラトニンは、抗酸化作用により細胞の新陳代謝を促し、病気の予防や老化防止に効果的であるとも考えられています。メラトニンには、脈拍・体温・血圧などを低下させることで睡眠の準備が出来たと体を認識させ、睡眠に向かわせる作用がある為、朝日を浴びて規則正しく生活することで、メラトニンの分泌する時間や量が調整され、人の持つ体内時計の機能、生体リズムが調整されます。
そのため不規則な生活や、日中に太陽光を浴びない生活を続けると、メラトニンがうまく分泌されず、不眠症などの睡眠障害の原因となります。またメラトニンは幼児期(1~5歳)に一番多く分泌され、歳を重ねる毎に分泌量が減っていきます。そして歳を取るとメラトニンの分泌量が減るため、睡眠時間が短縮されます。体内時計のリズムを整えるためには、起床時刻や就寝時刻を一定にするなど一日の生活リズムを整えることや、朝起きたときに日光を浴びることが大切です。夜は自然に深部体温が下がり眠くなるので、規則正しいリズムの眠りができ、脳と身体を休めることができます。
市販の睡眠薬について
最近では、テレビCMや広告で市販の睡眠薬をみかけることがあります。市販で売られている睡眠薬の主成分は「ジフェンヒドラミン」というものです。この薬剤の特徴は、体を覚醒させる働きがあるヒスタミンという体内物質の働きを抑えることで、眠気を発生させるものです。
実は、このジフェンヒドラミンは、もともとは睡眠薬として開発されたものではなく、蕁麻疹やアレルギー性鼻炎の治療薬として開発され、現在も尚、その用途に使用されています。
しかし、注意点もあり、一般的な副作用として、口の渇きや心拍数の増加、尿量の減少、便秘などが挙げられています。これは、以前から指摘されているもので、こうした症状が出た場合には服用を控えた方がよいでしょう。
市販の睡眠薬は手軽に入手できるうえに軽い症状ならば効果的なのですが、重い不眠症には必ずしも効果がありません。不眠がちで日常生活に支障をきたすことがあれば、早めに医療機関の受診をお勧めいたします。
より良い睡眠をとるために
良質な睡眠をとる為には、いくつかのポイントがあります。
就寝前は、喫煙やカフェイン、アルコールの摂取を避ける事もポイントの一つです。そのなかでも、アルコールは、一時的には眠りを誘いますが3~4時間で目が覚めてしまい、眠りが浅くなってしまう為、注意が必要です。
それとは逆に、良質な睡眠に適している食材もあります。それは、豆乳や牛乳などたんぱく質が多いものに含まれている、アミノ酸の一種である「トリプトファン」です。トリプトファンは、体内で睡眠ホルモンに変換されます。このような食材を意識して取り入れてみることが大切です。
皆さまは「眠らなければ!」と意気込んで、眠気が遠のいた経験をされたことはないでしょうか。その時は、普段の就寝時間にこだわらず、眠くなってから布団に入るようにしましょう。そうすることで、「布団に入る=就寝」と身体に意識づけることができます。
就寝前に、携帯電話やパソコンの光を見る事も、眠りを妨げる原因になります。携帯電話やパソコンから出るブルーライトには、眼精疲労を招くと同時に体内時計を狂わせ、眠りに入るのを妨げてしまう覚醒効果があります。そのため、目が冴えて、眠れなくなってしまうのです。
睡眠中は、レム睡眠とノンレム睡眠という二つのタイプの睡眠を繰り返していますが、ブルーライトに当たると、睡眠の中で最も大切なノンレム睡眠の質を下げてしまうことに繋がります。
実際の睡眠サイクルと必要な睡眠時間には「個人差」があるので、必要な睡眠時間は、睡眠の質のほか、遺伝子などによっても変わってきます。したがって、翌日に眠気を感じず快適な生活が送れる睡眠時間が最適であると考えられます。また、人は加齢によっても深い睡眠が少なくなります。
7時間を目安にして、自身にあった睡眠時間を模索し最適化していくと良いでしょう。
睡眠は、生活の基本です。睡眠の質を高めて、心も身体も健康で生き生きとした生活を送れるよう工夫してみてください。
著者:長谷川 大輔
精神科専門医
医療法人社団 平成医会
産業医統括責任者
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