運動がメンタルヘルスに与える影響
2020.02.10
- メンタルヘルス
運動後に、気分がスッキリしたり、前向きな気持ちになった経験はないでしょうか。運動がメンタルヘルスに与える効果は、研究でも明らかになっています。今回は、運動とメンタルヘルスの関係性について解説します。
運動とメンタルヘルスの研究
厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動基準2013」では、身体活動が将来的な疾病予防だけでなく、気分転換やストレス解消に繋がり、メンタルヘルスの不調を改善するために有効であるとされています。
また、アメリカのプリンストン大学研究チームの動物実験では、運動をすることで脳のストレスへの反応が弱まり不安を感じにくくなるということが明らかになりました。
さらに、ハーバード大学の研究によると身体活動の多い人や運動を頻繁にする人は、うつ病の罹患率が20〜30%低いことが報告されています。それは、運動習慣が身についていると、ストレスによって憂鬱な気分になることや、過度なストレスホルモンの分泌を抑えることで、うつ病を予防する効果があるようです。
弊会の復職支援プログラムでも、運動療法を取り入れており、体力回復や生活リズムの改善を含めて受講生の職場復帰へ役立てています。
運動が「心」を安定させるメカニズム
運動をすることによって、様々な良い影響が現れます。
運動をすることで、交感神経が優位である時間が長くなりポジティブになりやすいということが分かっています。
また、軽い運動でも、ストレスを解消させるためのホルモンが分泌されるのです。そのホルモンが、心を安定化させる働きをもつセロトニンやエンドルフィンといわれる物質です。
セロトニンは、精神の安定や安心感や平常心、頭の回転をよくして直観力を上げるなど、脳を活発に働かせる鍵となる脳内物質です。特に、ストレスに対して効能があり、自らの体内で自然に生成されるもので、精神安定剤とよく似た分子構造をしています。
エンドルフィンとは、痛みの緩和、免疫力向上やリラックス効果など、気分を良くするホルモンであり、その分泌量が減ると、代わりにノルアドレナリンという興奮ホルモンの分泌量が増加し、常に不安や興奮を感じるようになります。
運動はストレスを解消するだけでなく、ストレスに強い心身をつくる意味でも効果的であり、日常的に運動を続けることで、セロトニンやエンドルフィンが安定的に供給され、ストレスや疲労解消に効果を発揮します。
そして、運動をすると当然疲労します。その疲労感こそが、身体が睡眠を求めるサインであり、睡眠の質の向上に繋がるのです。すなわち、運動をすることで安眠でき、疲労回復やストレス解消効果が得られます。
しかし、布団に入ってから考え事をしていると、寝つきが悪くなり、睡眠中も脳は考え続けてしまうことがあります。そのため、眠りが浅くなったり、夜中に目が覚めてしまったり、起床時にスッキリしないという状況が起こることもあります。運動不足が不眠症に繋がる一つの要因になることもあります。運動には、前述した通り、ホルモンの分泌によって健康維持や健康増進をさせる働きがあるので、適度な運動は大切です。
効果的な運動方法
ここまで運動とメンタルヘルスの関連性について述べてきましたが、ストレス解消やうつ病改善には、具体的な運動方法や運動量は明らかになっていないといわれています。
WHO(世界保健機関)が推奨している運動は、自覚的に「きつい」と感じる程度の運動の有酸素運動を週に150分、またはスポーツやダッシュなどの激しい運動を週に75分することだといいます。
普段あまり運動をする機会がないという方は、ウォーキングやゆっくりとした短距離のジョギングなどから始めるとよいでしょう。
有酸素運動によってセロトニンの分泌を活性化できることも分かっています。セロトニンが活性化することで、心が落ち着いたり、前向きな気持ちになる効果があります。また、継続的に運動を行うことにより、満足感や達成感も感じられるようになり、自分を肯定的にとらえることもできます。
運動の習慣づけとそのメリット
運動をすることは、メンタルヘルスの改善効果だけではありません。運動を通しての仲間づくりなど、これまで出会うことのできなかった仲間と交流を持つ機会が得られることもあります。広い人間関係を築いておくことで、自分が困ったときに多様なサポートを得ることもできます。その存在こそが、「ソーシャルサポート」であり、ストレスのネガティブな影響を減らす原動力となります。
メタボリックシンドロームの予防や高血圧・糖尿病・肥満などの生活習慣病対策、認知機能の低下防止対策に運動は重要です。
日頃から適度な運動を心掛け、心身ともに健康的な生活を送りましょう。
大切なことは、楽しいと思える内容や量を続けることです。まずは、エスカレーターではなく階段を使ってみるなど、小さな心がけから始めてみてはいかがでしょうか。
著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長
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