「マズローの欲求五段階説」から考えるキャリア
2020.06.01
- メンタルヘルス
人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されているとする心理学理論を「マズローの欲求五段階説」と呼びます。 これは、アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908~1970)が考案したものです。
それらは、「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5つの階層に分かれています。ピラミッド状の序列は、低階層の欲求が満たされると、より高次の階層の欲求を欲するとされています。
5段階の欲求
1. 生理的欲求
生理的欲求は第1階層で、生きていくための本能的な欲求(食事・睡眠・排泄など)のことで、すなわち生きていくための基本的かつ本能的な欲求といえます。人間はどんな時でもまず何よりこの欲求を満たしたいと欲するのです。
2. 安全の欲求
安全欲求は第2階層で、危機を回避して、安全で安心した暮らしがしたいという欲求のことです。心身ともに健康で経済的にも安定した生活を送りたいという欲求をいいます。安全な場所や環境に身を置きたいと思うことがこの階層です。
3. 社会的欲求
社会的欲求は第3階層で、集団に所属したり、仲間を求めようとする欲求です。この欲求が満たされない時、人は孤独感や社会的不安を感じやすくなります。自分の集団にとっての役割や所属意識によって、社会的欲求は満たされます。物質的なものでは満足が得られないのがこの階層の特徴です。
4. 承認欲求
承認欲求は第4階層で、社会の中で自分の個性を見出したい、所属する集団の中で高い評価を得たり、尊重されたいという欲求です。それを獲得することがモチベーションになり、自分のポテンシャルに気づき、自分を成長させる原動力にもなるといわれています。
また、承認欲求は低位の承認欲求と高位の承認欲求に分類されます。前者は、他者から賞賛されたいという欲求で、後者は他人からの評価から自立し、自分を承認できるかという欲求です。近年のSNSの発展により、低位の承認欲求を得たいという傾向が強くあらわれるようになりました。思春期や青年期の自己肯定感の低さが影響しているのかもしれません。
5. 自己実現の欲求
1~4のすべての欲求が満たされた最階層が自己実現の欲求です。自己実現の欲求とは、自分の心の中にひめている自らに対する可能性や使命の達成をめざす欲求になります。これまで挙げてきた欲求よりもより広い視点で自身の人生に向き合うことがこの欲求の特徴です。
「自己実現の欲求」を越える欲求
5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つ上の段階があるとマズローはいいます。それは、自己超越の欲求と呼ばれ、社会貢献など、見返りを求めずエゴもなく、目的の遂行や達成だけを純粋に求めるという領域で、何かの課題や使命、職業や大切な仕事に貢献したいという欲求です。このレベルに達している人は人口の2%ほどともいわれ、スポーツでいわれる「ゾーンに入った」というのはこの状態のことを指すようです。
マズローの法則における様々な分類
これまで述べた5段階の欲求は、それぞれの性質によってグループ分することができます。生理的欲求や安全の欲求を「物質的欲求」と呼び、社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求を「精神的欲求」と分けることができます。
また別の分類方法では、足りないものを満たそうとする「欠乏欲求」とプラスアルファで高めようとする「成長欲求」に分けられます。欠乏欲求では、満たされていない状態では強くなり、満たされると弱くなる欲求であるといわれています。
さらに別の分類方法では、自分が関与する外部環境を充足する欲求か、内面を充足する欲求かでも分けることができます。生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求を「外的欲求」に、承認欲求と自己実現の欲求を「内的欲求」に分けられます。
物質的欲求と精神的欲求
マズローが考案した当時は、階層を上がるためには、その前の階層を完全に満たさないといけないと言われていました。しかし、6万人を対象に行われた調査によると各階層は同時進行で行われており、完全ではなくても、ある程度満たされていれば次の階層にフォーカスされることもあると いうことが分かりました。 さらに、上位の階層より下位の階層の方が幸せに対する影響力が強いということも明らかになりました。
幸せというのは、物質的欲求と精神的欲求がバランス良く満たされることで実現できるものです。例えば、多額の資産を持っている人も、周りに家族や友達がいない状況では孤独になり必ずしも幸せな状況とは言えないのかもしれません。
資本主義の発展により、物質的欲求のウエイトは大きくなっていますが、マズローは晩年、精神的欲求を満たすことで利益を生むような未来を夢見ていたそうです。自分と向き合い、何を求めているか考えたときに精神的欲求を満たすことにフォーカスしてみると大切なものに気づくのではないでしょうか。
著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師
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