タイプA行動パターンから学ぶ性格特性
2021.02.22
- メンタルヘルス
タイプA行動パターンについて
1950年にアメリカの医師であるフリードマンとローゼンマンは、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の患者に特徴的な行動パターンがあることを発見しました。
心臓病の外来で待合室の椅子の前脚が早く擦り切れるのをみつけてからは、数分待つことにもイライラした様子ですぐに立ち上がれるように浅く腰掛けている人が多く、椅子の擦り切れはそのためであることがわかりました。このように心臓病患者にはある特徴的な性格が多いことがわかってきたのです。これがタイプA行動パターンです。
タイプAの主な特徴として、時間的切迫感がある、達成欲求が強い、競争心や野心がある、攻撃性が高い、いつも苛立ち気味で敵意をいだきやすいなどの特徴があります。そのなかでも、攻撃性と敵意が心臓疾患とは関連が深いと考えられています。大声で早口、せっかちであることもその特徴です。タイプAの人は自らストレスの多い生活を選び、ストレスに対しての自覚が乏しく、体の疲れや痛みに気づきにくい傾向があります。そのため、血圧が上がる、脈拍が増えるなどのストレスに対しての反応によって循環器系に負担がかかり、虚血性心疾患の発症に関係してくると考えられています。アメリカ西海岸の大規模な共同研究の結果によれば、タイプAは逆のタイプBに比べて冠状動脈性心臓疾患の相対的危険度が約2倍という結果がでたそうです。
日本人は、仕事熱心、仕事中毒、仕事命の人が多くいます。そのような人の中には、このタイプAの人が多くいると考えられます。タイプAの行動パターンは現代社会で成功するための1つの条件であることもありますが、身体やメンタルヘルスへの悪影響もあります。
日本人のタイプAの特徴としてワーカーホリックが挙げられます。 「他者のための自己」という気質が日本人におけるタイプAにあたるようです。誰かのために一生懸命に働くことは大切ですが、そのことで自分を見失ってしまえば本末転倒です。興味深いのは日本人におけるタイプAはうつ病と結びつきやすいことが指摘されていることです。この性格は、同じ職場環境にいても他の人に比べて強いストレス反応を起こしやすいことがわかっており注意が必要です。
タイプBとタイプCの特徴
この分類にはタイプBとタイプCという種類もあります。
タイプB行動パターンとは、マイペースに行動することを好み穏やかで目立たず非攻撃的な性格といいます。
フリードマンらの報告によると、出世欲の強いタイプA性格よりもタイプB性格のほうが結果的には出世しやすいともいわれています。
一方タイプC行動パターンの人は、周囲に気をつかったり、感情を自分の中にため込みやすく、真面目で几帳面な性格傾向があります。自分を犠牲にして他者を気遣うタイプCは、周囲からの評価も高いことが多いのですが、表面的にはいわゆる「良い人」にみえても、何らかの葛藤やストレスを抱えている可能性も考えられる行動パターンです。
アメリカの心理学者のリディアとヘンリーは、タイプCをがんにかかりやすい性格傾向と提唱しています。
ストレスをため込みやすい性格傾向がホルモンや自律神経・免疫などに異常をきたし、がん細胞に対する免疫力を低下させていると考えたのです。しかしこの関連性については推測のレベルであり、十分に研究はされていません。タイプCに該当するような性格傾向を持つ人は、うつ病になりやすい性格傾向であるメランコリー親和型の性格傾向と共通するところが多いのは注目すべきポイントです。
生きづらさに直結しない性格傾向
タイプAとタイプCはなぜ心身の負担が大きいのでしょうか。
タイプAは自らストレスを作り出している性格ということもできます。周囲を蹴落として前へ進み、オーバーワークもものともせずに働きつづけるタイプAは、過剰なストレスに身をさらしつづける性格です。
それとは違い自分を犠牲にして周囲を気遣うタイプCは、ストレスをため込んでしまう性格といえます。
ストレスの受け方は異なっていますが、どちらも過剰なストレスを受けつづけている性格なのです。
タイプAの人であればゆっくりと考えることを意識するだけでもよいでしょう。タイプCの人は信用できる誰かに相談してみるというアクションを心がけるだけでもよいのです。無理のないできそうな範囲でとりくんでいくだけでもメンタルヘルスの向上にとっては効果的です。
タイプAは、真面目に一生懸命に働き会社や社会に貢献しようとするよい面もありますし、向上心をもち、完璧を目指し積極的に行動するので、管理職など指導的立場にあるものにとっては不可欠な要件でもあります。
問題は性格そのものではなく、ストレスを受けやすいという面なのです。
今よりも少しでもストレスを減らせる方法がないかと考えることは、これから心身共に健康で過ごすために大切なことです。
1981年にアメリカ心臓病学会は、タイプA行動が冠状動脈心臓疾患の危険因子と分類されるべきだと発表したのですが、それ以降タイプA行動と心臓疾患との関連をみつけることはできませんでした。
その理由には、タイプA行動の定義が拡散しすぎているせいではないかという研究者やタイプAの評定法の違いに原因があるのではないかという研究者がいるようです。多くの研究者は「時間的切迫感」と「競争」については、たいして重要な要因ではないと論じている反面、「敵意性」は重要な係数であるということがいわれるようになりました。その後の研究でも、「敵意性」が冠状動脈性心臓疾患の発生率の向上に関与することがわかってきています。
認知行動療法の可能性
フリードマンらは認知療法的技法と行動療法的技法を組み合わせることで、タイプA行動を減少させることを証明しました。過去に少なくとも1回心臓発作を経験したことがある1000人以上の被験者に以下のようなアプローチを行いました。
〇他人を観察してもらう
〇見知らぬ人と会話をする機会をもつ
〇普段であればじっくり考えない事柄をじっくり考える機会をもつ
〇人に爆発することなく自分の感情を表現でき特定の行動を変えるように助言をする
参加者は、家庭環境と仕事環境のストレスを減らす方法をみつけ、治療を受けた群の心臓発作の再発率は特に生活を変えていない人の約半分になりました。タイプA行動を修正することは、健康に有益であることが示されたのです。
人の性格は3つに分類できるほど単純ではありません。しかし、この分類をもとにご自身を振り返ることは心身の健康やこれからのキャリアを考えていくうえで重要なことなのかもしれません。
著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長
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