レジリエンスと自己効力感
2019.08.26
- メンタルヘルス
レジリエンスについて
メンタル面でのストレスによって心に「歪み」が生じたとき、その歪みを元に戻そうとするプロセスについてご紹介します。 心理学では、変形から元の形に戻ろうとする「弾力性」、変化や変動に対する反応としての「復元力」や「回復力」という意味でレジリエンスという言葉が使われます。レジリエンスとは
ストレスによって心や体に「歪み」が生じた際に、その歪みを元に戻そうとする力を「レジリエンス」といいます。
レジリエンスとは、元々物理用語で、物体に対して外力が加わり変形したときに、その力を吸収できるか、または元の形に戻ろうとすることをいいます。レジリエンスという言葉は、生態環境学や、社会環境システム、そして心理学でも使われており、いずれの分野においてもレジリエンスは、変形から元の形に戻ろうとする「弾力性」、変化や変動に対する反応としての「復元力」や「回復力」という意味で使われています。
米国心理学会はレジリエンスを、トラウマ、悲劇的な脅威、ストレスの重大な原因などの逆境に直面したとき、それにうまく適応するプロセスであると定義しています。また、レジリエンスは性格など個性ではなく、人々の行動や思考、行為に普遍的に含まれ、誰もが学習することが可能であり、発展させることができるものであるとされています。
レジリエンスが高いことで、人間関係の挫折をしなやかに乗り越えることができます。それでは、レジリエンスはどのように高めていけばいいのでしょうか。
レジリエンスの高め方
人は、同じ物事でも見方や感じ方が異なります。ある角度で見れば長所になり、また短所にもなるのです。例えば、ジュースが残り半分だったとします。悲観的な思考であれば、「もう半分しかない」と考えます。逆に、楽観的な思考であれば「まだ半分もある」と考えることができます。
このように、ある枠組み(フレーム)で捉えられている物事を、枠組みをはずして、違う枠組みで見ることをリフレーミングといいます。このリフレーミングを自分自身に対してやってみるとどうなるのでしょうか。自分が優柔不断で仕事上の決断も苦手であると仮定します。それをリフレーミングしてみると、何事にも慎重に対応できるという見方もできます。これは、ほんの一例ですが、日頃から心掛けてみることで自分を楽観的にみることができ、結果的に他人に対しても楽観的、前向きな見方ができるようになるのです。
レジリエンスを物体が元の形に戻ろうとする力や弾力性と説明しましたが、状況において要求される行動を、「うまく実行できる」と考える個人の確信のことを、自己効力感といいます。例えば、自己効力感が高い人は、自分の与えられた仕事がうまくできなくてもできるまで努力をし続けます。逆に、自己効力感の低い人は、自分に与えられた仕事が始めからうまくいかないと、すぐにあきらめてしまいます。
また、同じような困難に直面していても、危機をチャンスに変えて人生の成功を掴む人もいれば、危機をピンチとも思わずに乗り越えられる人、その不安や緊張に潰されてしまう人など、その捉え方や反応の仕方は人によって様々です。キーワードは、人によって変わる物事に対する捉え方や反応の仕方です。
レジリエンスに関する研究
さらに、こうした逆境に対する反応の違いは偶然に起きるものではなく、科学的な法則性があることがレジリエンスに関する研究によって徐々に解ってきました。
内閣府が発表した「平成26年版子ども・若者白書(概要版)特集 今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~」によると、自己肯定感を持っている若者は、アメリカ86.0%、イギリス83.1%、フランス82.7%と比べて、日本は45.8%と5割にも満たない低い水準です。すなわち、日本の若者は諸外国と比べて,自己を肯定的に捉えている者の割合が低く,自分に自信を持っている者の割合も低いのです。 日本の若者のうち,自分自身に満足している者の割合は5割弱,自分には長所があると思っている者の割合は7割弱で,いずれも諸外国と比べて日本が最も低い水準でした。
「自己効力感」をあげる実践的トレーニングで最も重要なのは、達成・成功体験です。すなわち、自分自身が何かを達成、成功した経験であり、日々の小さな成功体験の積み重ねが大きな自信につながります。日々の「やれたこと」を記録に残して1ヶ月くらいの記録を振り返ることも、自己効力感をあげる結果につながります。
さらに、自分から見てうまくいっている人をまねて演じることや、自分の成功経験を想像することでも自己効力感は上がります。苦手な上司との面談がある際には、「うまく自分の気持ちを伝えられる」「きっと話が盛り上がって楽しくなる」など、リアルな場面を想像し続けるのです。自己効力感があがると、自分に「自信」がつき、コミュニケーションにおじけづかなくなります。その結果、他人に対しても寛容になり、円滑なコミュニケーションができるようになるのです。
このように、人間関係を円満にしていくために、セルフトレーニングで解決することもあります。他人を変えることは容易なことではありません。しかし、自分の態度や認知が変われば、相手との関係性も変わります。カナダ出身の精神科医であり、1957年に交流分析(Transactional Analysis:TA)を提唱したエリック・バーンは、「過去と他人は変えられない。しかし、ここから始まる未来と自分は変えられる」という言葉を残しています。自分に合ったトレーニング法を行ってみることで、「人間関係に折れない心」を作り、新たな自分を発見してみてはいかがでしょうか。
著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長
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