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産後うつ病とその予防

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日本では、出産を経験した女性のうち10人に1人が「産後うつ病」にかかるといわれています。かつては時間が経てば治ると誤解されていたこともあり、自ら相談することをためらい、一人で問題を抱え込んでしまうケースも多くみられます。
メンタルヘルスコラム:産後うつ病とその予防

産後うつ病とは

産後うつ病は、産後2週間~3か月以内に発症することが多いとされるうつ病で、気分の落ち込みや不安、興味や楽しみの喪失、不眠、自責感、気力や自己評価の低下などの症状が、2週間以上続きます。ひどい場合は、消えてしまいたいと感じ、自傷行為や自殺念慮に繋がる場合もあります。産後うつ病は、母子ともに深刻な影響を及ぼす可能性が高いため、妊娠から出産を経た女性に、注意が必要な病気のひとつです。

産後うつ病とマタニティブルーズの違い

産後うつ病と類似したものに、マタニティブルーズがあります。多くの女性が、妊娠・出産に伴うホルモンの急激な変化、出産そのものによるストレスや疲労などにより、何らかの精神的な変化を経験します。マタニティブルーズも、約30%の女性が経験するといわれており、出産後2~5日頃から、涙もろさや不安定な気分、抑うつ、イライラなどを経験します。しかし産後うつ病とは違い、マタニティブルーズは一過性であることが多く、1~2週間経つと自然に軽快します。
マタニティブルーズは、生活や育児への支障は最小限である一方で、産後うつ病は大きな影響を及ぼすことが多くあります。また、マタニティブルーズを経験した女性は、産後うつ病の発症のリスクも高まると言われています。

なぜ産後うつ病になるのか

産後うつ病が発症する要因としては、精神疾患の既往の他、周囲やパートナーからのサポートの乏しさ、昼夜を問わずに続く育児による疲労の蓄積、夜間の授乳やおむつ替えなどにより睡眠不足が連続することなど、育児環境を要因とした影響も大きいとされています。
産後うつ病を発症する人は、妊娠中からも不安やうつの予兆が見られることも少なくないため、早い段階から注意してケアを行い、周囲からも手を差し伸べる必要があります。

メンタルヘルスコラム:産後うつ病の診断

産後うつ病の診断

国としても、産後うつ病の早期発見と支援および新生児への虐待予防を図るため、産婦健康診査にかかる費用を助成する事業を実施しており、区市町村が主体となり、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)を用いたスクリーニングを行っています。平成31年度からは、外国語版も補助の対象とされています。EPDSのみでは、産後うつ病の確定診断はできないため、他に精神科医による診察や検査を行うことが必要です。

《エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)》

・笑うことができたし、物事の面おもしろい面もわかった。
・物事を楽しみにして待った。
・物事がうまく行かない時、自分を不必要に責めた。
・はっきりした理由もないのに不安になったり、心配したりした。
・はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた。
・することがたくさんあって大変だった。
・不幸せな気分なので、眠りにくかった。
・悲しくなったり、惨めになったりした。
・不幸せな気分だったので、泣いていた。
・自分の体を傷つけるという考えが浮かんできた。

産後うつ病の治療

産後うつ病の治療は、薬物療法と精神療法が中心として行われます。母乳育児をしている場合、授乳中の服薬への抵抗感から受診をためらう方もいらっしゃいます。しかし、うつ病の治療においては服薬によるメリットも大きいため、その点も医師に相談した上で、母乳移行が少ないタイプの薬剤を選択したり、医師やカウンセラーによるカウンセリングを受けることで薬に頼らない治療を選択することも可能です。
特に、家事や育児が行えなくなっていたり、自殺念慮がある場合などは、早期に精神科や心療内科などの専門科へ受診することが必要です。

疲労やストレスを溜めずに頼れる相談先をもちましょう

子供と対峙する育児には正解がなく、育児は長期間にわたるものです。
産後うつ病の発症時期を過ぎても、子供が2歳を迎える頃には、イヤイヤ期と呼ばれる第一次反抗期を迎え、自己主張や癇癪が強くなります。そのことにより、親もストレスが溜まり、育児ノイローゼや育児によるストレスを原因としたうつ病を発症してしまう場合もあります。
出産後の女性だけでなく、育児をする男性を含めた養育者が、一人で育児を抱え込まず、疲労やストレスを感じたら、頼れる先を持っておくことが大切です。
2019年に「母子保健法の一部を改正する法律」が改訂され、各自治体にも産後ケア事業の実施が努力義務とされました。また自治体だけでなく、民間の事業でも、産後ケアに力を入れている機関は増えてきています。
パートナーや家族、医療機関を始め、地域の保健センターや保健師、民間サービスなど、相談したり、ニーズに合わせて支援してもらえる先を見つけておくことが、出産や育児にともなうメンタルヘルス不調を予防することに繋がります。



著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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