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自分への信頼度はどのくらい?

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皆さんは自分をどのくらい信頼していますか。 「自分はできる」という自分への信頼感を自己効力感といいます。自己効力感は主観であり、他者からの評価は重視していません。自己効力感の高さは、ポジティブな気持ちや行動にあらわれるといいます。今回は、自己効力感をあげるメリットについて解説します。
メンタルヘルスコラム:自分への信頼度はどのくらい?

自己効力感とは?

自己効力感とは、価値ある目標を目指して「自分ならできる」と自信に満ちた感覚のことです。心理学者のアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が提唱しました。英語ではセルフエフィカシー(self-efficacy)といい、「自己可能感」「自己革新」などに訳されます。自己効力感が高い人ほど目標達成の成功率が上がるといわれています。自己効力感は、数値では図れません。自己肯定感と似ていますが、自己肯定感はありのままの自分を認める感覚ですので、できるできないの評価が必要ない点が自己効力感との違いです。

自己効力感の4つの要素

バンデューラは自己効力感を生みだすには4つの情報源があるといっています。
ここで、自己効力感に必要な要素をご紹介します。

〇直接的達成経験
自分が設定した目標を達成することで、壁にぶつかっても過去の成功体験によって「自分なら以前のようにやりとげられる」という揺るぎない自信がつきます。これを直接的達成経験といいます。
些細なことでも自分が決めた目標を達成することで、自己効力感は高まります。
特に辛い体験からの成功体験は、より自己効力感が定着するといわれています。
直接的達成経験のポイントは、「自力で物事をやり遂げた」という実感です。

〇代理経験
直接的に自分が行動していなくても、他者の経験を見聞きするだけでも自己効力感は高まります。これを「代理経験」といい、モデリングとも呼ばれます。逆に、他者がある行為を行って失敗したことを観察すると、自身の自己効力感も低下するともいわれています。ロールモデルの対象者が近しい人物であればあるほど、代理経験の効果が増加します。

〇言語的説得
自分の能力やスキルが優れているところを他者からフィードバックされて、かつ何度もくりかえし「あなたならできる」と説得されることで自己効力感が高まることを「言語的説得」いいます。
これは褒められたからだけではなく、褒められたのをきっかけにして自らがアクションを起こし、やり遂げる能力がついたことで、自己効力感の形成につながったといえます。

〇生理的・情動的喚起
身体の中で生じた生理的、感情的な変化状態を意識することで自己効力感が形成されることを、生理的・情動的喚起といいます。自分にとっての効果的な様々な要因で気分が高揚し、「できる」気持ちがたかぶることです。生理的・感情的な変化の自分の受け止めるかによって、自己効力感の形成が異なります。好きな音楽を聴いて、気持ちを盛り上げたり、「かつ丼を食べる」「赤を身に着ける」「うまくいくシャツ」などジンクスをかつぐことをそれにあたります。

日本人の自己効力感

内閣府が実施した調査で、令和元年版子供・若者白書に興味深いデータがあります。
「我が国と諸外国の若者(満13歳~満29歳までの男女)の意識に関する調査」の中に自己肯定感に関する調査がありました。日本の若者で「自分自身に満足している」に「そう思う」と回答した者の割合は、10.4%でした。一方各国では、アメリカ57.9%、フランス42.3%、イギリス42.0%、韓国36.3%、ドイツ33.0%、スウェーデン30.8%という結果でした。この調査では、日本の若者は諸外国の若者と比べて、自分自身に満足していたり、自分に長所があると感じていたりする者の割合が最も低い結果になりました。

メンタルヘルスコラム:自己肯定感を高める方法

自己肯定感を高める方法

自己効力感を向上させるための具体的な方法について見てきましょう。

小さな成功体験を積み重ねる

自己効力感を高めるには、直接的達成経験をするのが最も効果的だといわれています。
実現可能な成功体験を多く積み重ねていくことが重要です。具体的には、ハードルが低い短期目標を多くクリアしていくとよいでしょう。

過去に成功した経験をリストアップする

過去の直接的達成経験を掘りおこすのも、自己効力感を高めるのに有効です。まずは過去の成功体験をリストアップします。どんなに些細なことでもよいので、「自分でもできた」「できなかったのにできるようなった」ことを思い出してみましょう。

自己効力感が強い身近な人を観察して模倣する

自己効力感が強い人を観察・模倣するだけで、自己効力感が向上するといわれています。この代理経験による対象者は幅広く、有名人や著名人でも問題ありません。自己効力感をより向上させるためには、身近な人をロールモデルにすると良いでしょう。さらに、自分と類似性が高い人を対象にするとより効果があります。代理経験においては「あの人ができたなら、自分もできる」という実感が大切です。

応援してもらえる環境に身を置く

家族や仲のいい友人や同僚たちなどの周囲の人に応援してもらうのも良いといわれています。「自分を褒めてくれ」と周囲にお願いするのも難しいこともあるでしょうから、セミナーや社内イベントを利用して、集団セッションなどのグループワークに参加してみましょう。他者から褒められたり、励まされたりすれば自己効力感が高まります。

成功をイメージしてポジティブな気分になる

自己効力感を生み出す情報源の一つ「生理的・情動的喚起」においては、気分がいいときに自己効力感が高まり、逆に気分が落ち込んでいるときには下がるといわているため、過去の成功体験がどうしても見当たらないときには、成功をイメージするだけでも効果はあります。
例えば、アスリートは重要な試合の前に、成功している自分を具体的にイメージして試合に挑みます。これをバンデューラは「想像的体験」と定義しています。思い込みでも十分、自己効力感は高まるということです。

自己効力感を高めるには、自分を大切にすることが重要です。承認欲求ばかりを気にするのではなく、自分軸をもって、自分自身を認めてあげることができれば、少しだけ生きやすくなるのかもしれません。皆さんもこれを機に自身の自己効力感について考えてみてはいかがでしょうか。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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