心に関連した身体の病気:心身症
2020.06.15
- メンタルヘルス
「心身症」と聞いた時に、みなさまは心と身体のどちらの病気をイメージされますか。
心身症は精神疾患の一つと思われがちですが、実際には身体の病気です。
今回は「心身症」について解説します。
心身症とは
日本心身医学会の定義による心身症の定義は以下のとおりです。
『心身症とは身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する』
この定義は1991年から変わっていないものです。
この定義を考えた時に、ポイントとなるのは、「発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与」というところです。心理社会的な因子というのは、言い換えれば「ストレス」のことです。
心身症は「ストレス関連疾患」と呼ばれているように、ストレスに密接に関与しているのです。
心身症には、本態性高血圧症、胃十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、頭痛、アトピー性皮膚炎などの全身の臓器にわたる様々な疾患があります。
但し、これらの疾患が必ずしも心身症ということではなく、その疾患の発症や経過にストレスが密接に関わっていた場合に、心身症となるのです。
心身症によく見られる症状やその特徴
心身症には様々な疾患が含まれるため、症状も多岐にわたります。
多いものは、頭痛・耳鳴り・めまい・胃痛・腹痛・腹部膨満・吐き気・皮膚炎・だるさ・食欲不振などですが、この他にも心身症による症状は幾つも存在します。
心身症の方の特徴的な性格傾向を分析していく中で提唱された考え方でアレキシサイミア(alexithymia)というものがあります。アレキシサイミアを日本語に訳すと「失感情症」ですが、感情がないということではありません。感情はあるものの、自身の感情に気づいたり、その感情を言葉にすることが不得意ということです。そのため、周囲からは「ぼーっとしている」「反応が乏しい」と思われがちです。
失感情症は、なんだかおかしいという違和感やしっくりこないという慢性的な抑うつ感を抱えていることが多くみられ、自身の感情をうまくコントロール出来ずストレスが積み重なることで、心身症になることがあります。
医療機関にかかるにはどうしたら良いか
心身症の症状は多彩であるため、本人も周囲も初めは心身症と気付かないことも少なくありません。心身症の専門は心療内科ですが、実際には器質的・機能的な障害が認められている病態であるため、それぞれの専門の診療科でも治療は可能です。しかし、内科や皮膚科等を受診するものの、通常の治療で改善が乏しいことで、心療内科を受診するきっかけとなったりすることもあります。
心療内科では、薬物治療に加えて、カウンセリングなどの心理的なアプローチが行なわれます。
心療内科は大きな枠組みで分ければ内科です。心療内科も他の内科も、身体の不調を治療するという点では同じです。違うのは、心療内科は身体だけでなく心も含めて治療をするということです。
治療方法
心身症の発症に関わるストレスを軽減することは、薬物療法と並んで重要な治療です。
①生活習慣を整える
生活習慣の乱れは心と身体の両面に非常に大きなストレスとなります。特に、睡眠不足や起床時間の遅れは生活リズムの乱れを引き起こします。また、食事は腸の活動に直接影響しているため、規則正しく食事を摂ることで、体内リズムを整えることができます。
②ストレスを認識する
ストレスを感じている感情を認識していくことは、簡単そうに思えますが、実は難しいことです。起きた事実や感じたことを誰かに言葉で伝えたり、ノートなどに書き留めるのも良いでしょう。言語化したり、視覚的に捉えることで、漠然としたものが形となって整理されていきます。こうして一つずつストレスを整理していくことが大切です。
③身体症状に合わせた治療を行なう
身体に異常が認められていれば、それを治療するお薬を使っていきます。身体症状がストレスとなり、心身症をさらに悪化させ、悪循環に陥っていることもあります。
④自身のリラックス法を習慣化する
ストレスなく生活することは現代を生きる私たちには難しいことです。しかし、ストレスを感じた時に、自身でリラックスすることが出来れば、ストレスを軽減し、心身症のリスクも減らすことが出来ます。代表的なリラックス法は、呼吸法・自律訓練法・リラクゼーション法です。
心身症について理解していただけましたか。
ストレスは様々なことが原因となりますが、今回のCOVID-19 (通称: 新型コロナウィルス)の流行は私たちに大きな影響を及ぼしています。感染拡大による外出自粛やテレワークへの移行により、行動制限、コミュニケーション不足、感染への恐怖、家庭内役割の変化、収入の減少、雇用危機、娯楽の制限など、多くの人が大きなストレスを経験しています。
心身症には心と身体、両面からのアプローチが欠かせません。
まずは心身症を正しく理解し、ストレスを軽減できる生活習慣を保つようにしていきましょう。
著者:金子 綾香
保健師
医療法人社団 平成医会
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