ワーク・ライフ・バランスとキャリア
2021.05.17
- メンタルヘルス
ワーク・ライフ・バランスについて
仕事は暮らしを支え生きがいや喜びをもたらします。同時にプライベートの生活も暮らしに欠かすことができないものであり、その充実があってこそ人生の生きがいや喜びは倍増します。
現実の社会には安定した仕事に就けず経済的に自立することができない人や仕事に追われ心身の疲労から健康を害しかねない人、仕事と子育てや老親の介護との両立に悩むなど、仕事と生活の間で問題を抱える人が多くいます。働く人々の将来への不安が活力の低下や少子化・人口減少という現象にまで繋がっています。それを解決する取組が仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現です。
「ワーク・ライフ・バランス憲章」では、仕事と生活の調和が実現した社会を「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義しています。
ワーク・ライフ・バランスの現状
各企業におけるワーク・ライフ・バランスの取り組みは徐々に浸透しつつありますが、内閣府が実施した調査では、従業員の希望が会社と一致していないと考える人は50%前後と多く、「不本意ながらワークを優先している」と答えた人の割合は8~9割にものぼっています。企業と従業員の意識をいかに近づけ双方にメリットのある制度を構築していくかが、今後企業にとって課題となりそうです。
ワーク・ライフ・バランスが必要とされた背景には企業の経営事情が関係しています。
2007年頃から団塊の世代が一斉に退職し労働力が不足しました。子育てや介護などから環境の変化でやむを得ず離職せざるをえない従業員が増えれば、残された従業員の負担はより大きくなります。
労働時間や働ける場所に制約がある従業員も引き続き会社で活躍できるような環境を提供し、人手不足に歯止めをかける目的で提唱されたのがワーク・ライフ・バランスです。
ワーク・ライフ・バランスを実現する「10の実践」
内閣府は、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みとして、「10の実践」というものを掲げています。
① 会議のムダ取り
会議の目的やゴールを明確にして、議論の方向性を一定に保つことで時間の無駄を省きます。参加するメンバーや開催時間の見直しを定期的に行うとよいでしょう。
② 社内資料の削減
上司への報告資料、社内会議での配布資料など社内向け資料は多くあります。事前に社内資料の作成基準を明確にして、必要以上の資料の作成をしないようにするとよいでしょう。
③ 書類を整理整頓する
誰が見ても書類のありかがすぐにわかるような文書管理をすれば仕事の属人化も薄め、担当者が休暇を取得した際や交代・引継ぎ時のトラブルを抑制し、組織的な業務遂行を可能にします。キャビネットやデスクの整理整頓を行い書類を探すための時間を削減することも効果的でしょう。
④ 標準化・マニュアル化
「人に仕事がつく」スタイルを改め、業務を可能な限り標準化、マニュアル化するとよいでしょう。
⑤ 労働時間を適切に管理
長時間労働が偏在し恒常化するなど、従業員個々のレベルでは業務の効率化が難しいことがあります。その際は、管理職のリーダーシップをはじめとした組織的な対応が必要となります。上司は部下の仕事と労働時間を把握し、部下も仕事の進捗報告をしっかりと行う体制づくりが必要です。
⑥ 業務分担の適正化
業務の流れ自体に、業務の効率性を阻害する要因が隠されている場合があります。業務の流れを分析した上で、業務分担の適正化を図ります。
⑦ 担当以外の業務を知る
業務負荷が特定の人に集中した際に、業務分担の平準化を行います。各従業員にある程度広い範囲の業務を担当させ、かつ適切な意思決定ができるようにする必要があります。権限の委譲には各従業員が主たる担当業務の周辺の業務に関する知識やスキルを身に付けておく必要があります。周りの人が担当している業務を知り、業務負荷が高いときに助け合える環境をつくります。
⑧ スケジュールの共有化
業務の現場で従業員各自が時間間隔を持つことも「めりはりのある働き方」に向けた業務効率化の重要な要素となります。時間管理ツールを用いてスケジュールの共有を図ることで、相手への配慮にもつながり残業時間
が減少するでしょう。
⑨ 「がんばるタイム」の設定
ホワイトカラーの場合、業務の効率性は個人の集中力とその持続性に左右されます。職場ではだれにも邪魔されず、集中して自身の業務に没頭することが意外に難しいものです。例えば、特定の曜日や時間帯においては雑音を一定時間遮断して効率的な業務を遂行するための時間を「がんばるタイム」と称して取り組むことも効果的でしょう。
⑩ 仕事の効率化策の共有
研修などを開催して、効率的な仕事の進め方を共有することが重要です。知識を職場全体、会社全体に広げていくことために研修やミーティングを開催し、自身の仕事の進め方について考える機会を提供することも有効でしょう。
ワーク・ライフ・バランスを実現するためには、業務や体制の抜本的な見直しや休暇取得率の促進など、様々な観点から社内制度を改革することが必要です。
心理学者サニー・ハンセンは「仕事」だけをしていれば充実した豊かな人生を送れるのではなく、仕事と並行して「余暇・学習・愛」がその中に存在していなければ、本当によい仕事はできず、偏った生活のなかで人生はいつしか味気ないもの、貧しいものに変容するものであると警鐘を鳴らしています。
皆さまもこれを機会に、ご自身の働き方やこれからのキャリアについて考えてみてはいかがでしょうか。
著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師
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