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ワーク・エンゲイジメントの向上が及ぼす効果

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働く人の心の健康度を示す概念である「ワーク・エンゲイジメント」。従業員側と経営者側の双方にとって快適で、従業員がいきいきと元気に働くことのできる、活気のある職場環境をつくるためのヒントとしてご紹介いたします。

ワークエンゲージメントについて

働く人にとっては、日々仕事をしていると辛いことや困難なこと、やる気が湧かず仕事がはかどらないこともあると思います。
一方で経営者にとっても、従業員にはいつも元気でいきいきと働いてほしい、仕事を通して成長し、会社の戦力として活躍してほしいと願う気持ちは共通してあるものです。
では、どうすれば従業員がいきいきと元気に働く、活気ある職場環境をつくることができるのか、今回はそのヒントとなる「ワーク・エンゲイジメント」について解説いたします。

◆ワーク・エンゲイジメントとは?

働く人の心の健康度を示す概念で「ワーク・エンゲイジメント」という言葉があります。仕事に対しての「熱意」「没頭」「活力」の3つの要素から構成され、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態のことをいいます。
このうち、「活力」は“就業中の高い水準のエネルギーや心理的な回復力”を、「熱意」は“仕事への強い関与、仕事をする意味や誇り”を、「没頭」は“仕事への集中と没頭”を意味しています。したがって、ワーク・エンゲイジメントの高い人は、仕事に誇りややりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ていきいきとしている状態にあると言えます。
ワーク・エンゲイジメントという言葉は、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の研究で有名なオランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ(Wilmar B.Schaufeli)教授によって提唱されました。
「バーンアウト(燃え尽き症候群)」は、仕事などに一生懸命没頭したにもかかわらず、本人が期待した結果が得られないといった不満感や疲労感により、あたかも「燃え尽きたように」意欲を失ってしまう状態のことを言い、ワーク・エンゲイジメントと対極の意味にあります。

◆従業員エンゲイジメントが低い日本

世界各国で比較した調査によると、日本は「従業員エンゲイジメントが高い社員」の割合がわずか6%であり、米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139ヵ国中132位と最下位レベルであるという結果が出ました。やる気に満ち溢れ、熱意をもって仕事をする人が少ないということがわかります。

◆「ワーカホリック(ワーカホリズム)」との違い

ワーク・エンゲイジメントと同じ意味を持つと間違われやすいものにワーカホリックがあります。ワーク・エンゲイジメントは「仕事が楽しい!」とポジティブな感覚で仕事に取り組んでいる状態であるのに対して、ワーカホリックは「仕事から離れた時の罪悪感や不安を回避するために仕事をせざるをえない」といった、強迫性をもつ切羽詰った感覚と言われます。「仕事への態度や認知」の軸、すなわち「仕事に対する(内発的)」な動機づけという点で大きな違いがあります。
ワーク・エンゲイジメントが高い人の特徴について

◆ワーク・エンゲイジメントが高い人の特徴

これまでの研究で、ワーク・エンゲイジメントが高い人は、不安、抑うつ、イライラ感などのストレス反応や不定愁訴が少ないことが明らかになっています。また不眠症状や目覚めにくさ、倦怠感や日中の眠気が少なく、睡眠の質も良くなると言われています。
平成医会独自のテストプログラムである「ライフ&ワークリサーチ」による分析においても、ワーク・エンゲイジメントが高い集団は、ストレスチェックの結果で、高ストレス者の割合が低く、健康群の割合が優位に高い結果となりました。
つまり、仕事に誇りややりがいを感じ、いきいきと満足感をもって仕事をしている人たちは、仕事を重荷に感じず、心身の不調も起こりにくいのです。
そして更に、仕事からエネルギーをもらうことでプライベートも充実するという、良い循環が起こり、人生はより豊かなものになっていきます。

◆ワーク・エンゲイジメントの高め方

カナダの心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)は、ワーク・エンゲイジメントを高くする要素の一つとして「自己効力感」という概念を提唱しました。これは自身の有能感や、自尊心、自信、自己を肯定するセルフイメージのことで、幼い頃からの小さな成功体験の積み重ねによって培われます。
では、幼い頃に成功体験が少なかった人は、ずっと自己効力感が低いままかと言うと、そんなことはありません。大人になってからでも自己効力感を高めることはできます。
日常の中で自分なりに目標を立て、それができたら自分を褒める、ということを繰り返し行っていくことで、自己効力感を高めていくことができます。
今の自分にできることを見つけ、目標を達成できるように努力する、その日々の積み重ねが、満足度の高い、充実した人生を創り上げていくのではないでしょうか。

◆ワーク・エンゲイジメントの可能性と価値

会社として従業員個人を尊重し、キャリアアップや成長の機会を与えたり、会社が目指す方向性や業務プロセスを明確にすることは、会社に対する従業員の信頼を強めるなど、従業員のエンゲイジメントを高めます。
一方でまた従業員も、元気にいきいきと働きより豊かな人生を送っていくために、自身の仕事のモチベーションは何であるか、自分が大切にする価値観を見つめ、自己を肯定しながら目標に向かって努力することも重要です。
その両輪がバランスよく回ってこそ、皆にとって働きやすい職場がつくられていくのではないでしょうか。
ぜひこの機会に、皆さまもご自身のワーク・エンゲイジメントついて考えてみてはいかがでしょうか。


著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師


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