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避けられないアンコンシャス・バイアス

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無意識な思い込みや偏見は誰にでもあるものです。 脳ができるだけエネルギーを消費せずに物事を判断するための機能がアンコンシャス・バイアスです。和訳すると「無意識の偏見」となります。アンコンシャス・バイアスは、脳にとっては省エネな機能ですが、弊害もあります。今回は、アンコンシャス・バイアスへの対処法について解説します。
メンタルヘルスコラム:避けられないアンコンシャス・バイアス

アンコンシャス・バイアスとは

日常でおこる「無意識の思い込み」をアンコンシャス・バイアスといいます。脳が高速に判断したり、知的な連想をするための機能でもあり、脳は多くのエネルギーを消費しますので、できるだけエネルギーを使わずに判断するために必要な能力です。そのため、アンコンシャス・バイアスは人類の生存戦略の結果ともいえます。
アンコンシャス・バイアスは過去の経験や価値観、日々の情報からつくられ、無意識に行動や言動に現れます。
完全になくすことは難しいのですが、自分のアンコンシャス・バイアスを意識することやそれをコントロールすることが求められます。

アンコンシャス・バイアスの例

アンコンシャス・バイアスの身近な例として、以下のようなものがあります。
性別、年齢、学歴などの個人の表面的な属性に対するものです。
具体例をあげると、男性は青で女性は赤、お茶出しは女性の仕事、〇〇大学の人は能力が高いなど、自身の偏った価値観を普遍的な事実だと誤認してしまうのです。
また、過去の習慣や、実績などから生じるものもあります。
雑用は新入社員の仕事などとこれまでの習慣から決めつけてしまうようなものはそれにあたります。
特定の人に対する思い込みも注意が必要です。
例えば、残業が少ない人は頑張っていないや九州出身の人はこんな性格といったことがあります。
このように、対象の人に対する伝聞や個人的な経験で生じた思いこみがきっかけになるようです。

心理学から考えるアンコンシャス・バイアス

アンコンシャス・バイアスにつながる代表的なバイアスの例を一部紹介します。

ステレオタイプ

人の属性や一部の傾向に対する先入観や固定観念のことで、「男性は外で働き、女性は家庭を守るもの」など、特定の性別や属性、職業などに対する偏ったイメージにもとづいた決めつけのことです。これは、性別固定役割分担意識を助長する思い込みの一つとなる場合があります。

慈悲的差別

自分より立場が弱いと思う他人に対して、本人に確認せずに、先回りして不要な配慮や気遣いをすることです。
女性には負担はかけれないという思い込みや本人の気持ちを尊重せずに、障がいのある人は助けなければいけないという自分よがりな正義感はこれにあたります。

権威バイアス

上司や組織の長、権威のある人や専門家の言動をすべて正しいと思い込み、深く考えずにその通りに行動してしまうことです。
「社長が言うことなのだから、間違いない」「この組織でこれだけの地位の人だから、きっとその通りだ」と考えてしまうのがそれにあたります。
これを回避するためには、価値観や物事の前提はつねに変化していること、同じ人物でも考え方がよくも悪くも変化していくものだと考えるとよいでしょう。年齢を重ねても考え方をアップデートできるようにしていきたいものです。

確証バイアス

仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことです。自分の信じる考えを補強する材料ばかり集めてしまうため、客観的な視点を欠いていくのがこのバイアスの特徴です。自分の意見ばかりを通してしまいがちな人はこの考え方が強く影響しているのかもしれません。
その様な人は、日頃から正反対の意見にも慣れていき、自らで確かめ、客観的に見て有効だと思われる情報を取捨選択し、判断していく能力が必要です。

ハロー効果

好感を抱いた人物の考えや行動に対しては疑うことなくすべて肯定してしまうことです。
好感を抱いた人への肯定が自分自身を肯定する気持ちにも繋がりやすく、たとえ違和感を抱いたとしてもそれを押しとめてしまうことがあります。思考が相手に大きく依存してしまい、主体的な判断ができなくなってしまうことが懸念点です。

メンタルヘルスコラム:アンコンシャス・バイアスへの対処方法

アンコンシャス・バイアスへの対処方法

アンコンシャス・バイアスはトレーニングで意識することができるようになります。
アンコンシャス・バイアスの知識を身に着け、それをディスカッションやロールプレイで体験をすることが効果的です。
例えば、「男性が日傘をさすこと」に対してどのように感じたかを発表していきます。自分が普段どう感じているか無意識を自覚してシェアすることでも職場の雰囲気は変わります。
個人でできることとして、自分がどんなときに無意識の偏見に陥ってしまっているかの振り返りがあります。意思決定や発言をする前に、考えることが重要です。日々の言動でどんなバイアスがあるか観察したり、記録をつけて、傾向を調べてみるのもよいでしょう。
とは言え、これまでの経験や考え方から構築されている、アンコンシャス・バイアスに気づくことは難しいものです。そのため、周囲の人から指摘してもらうことも一つの方法です。対話する機会をふやし、しっかりと傾聴して、自分の意見もしっかりと伝えることができるような関係性を構築できるとよいでしょう。
異なる意見や少数意見に耳を傾けることも忘れないでください。
さらに、行動経済学の知見を活かして、無意識のバイアスがあることを前提に仕組みをつくっているものもあります。例えば、履歴書から属性が判別できる情報を削除することやイベントの登壇者の男女比の偏りをなくす、意思決定の多様化のためにクオーター制を導入するなどです。

アンコンシャス・バイアスは、行き過ぎた自己防衛から生まれることもあります。自分と異なる価値観や意見を「自分自身に対する否定」と混同してしまうのです。価値観の変化や否定的な意見の存在を受けとめることも必要です。自分を客観的にとらえたり、定期的に見つめ直すことで自己理解が深まります。そして、自分の中の偏見を修正してコミュニケーションをすることで、相手を尊重することができるかもしれません。

「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」においては、固定的な性別役割分担意識や性差に関する偏見の解消、固定観念を打破するとともに、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)による悪影響が生じないよう、男女双方の意識改革と理解の促進を図ることとしています。
内閣府男女共同参画局は、アンコンシャス・バイアスについて、気づきの機会を提供し、理解を促すことでその解消を図るために、令和3年度から性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究を実施しています。興味がある方は是非ご覧になってください。


著者:長谷川 大輔
精神科専門医
医療法人社団 平成医会
産業医統括責任者


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