健康リスクを高める座りすぎに要注意
2021.02.15
- メンタルヘルス
日本人の身体活動は低下し続けている
座位時間と同様に、身体活動の指標として用いられているのが歩数です。
みなさまは1日にどのくらい歩いていますか。最近はスマートフォンに歩数を計測する機能がついていることもあり身近になってきている人もいると思います。
厚生労働省のデータによると、1990年代後半以降、日本人の歩数は減少し続けています。数字でみると、男性で7,300歩(2007年)→6,800歩(2017年)、女性で6,200歩(2007年)→5,800歩(2017年)とこの10年でも大きく減少しています。その理由は、労働・家事・通勤などの日常生活における身体活動の減少です。今は当たり前になっていますが、以前は部屋の電気を消したり、テレビのチャンネルを変える度に立ち上がっていたと思います。買いたいものがあったら、店頭まで行っていましたが、現在はネット通販で買える物も多くなっています。私たちが生活する場所には、エスカレータやエレベーターがあり、階段を使わないことが日常になっているはずです。
私たちは便利で効率的な生活を追求してきましたが、それによる代償もあることを忘れてはならないと思います。
運動不足が原因となっている死亡が5万人
平成30年に厚生労働省が公表した「身体活動・運動を通じた健康増進のための厚生労働省の取り組み」の資料に驚くことが載っています。「わが国では運動不足が原因で毎年5万人が死亡」という見出しです。
運動不足を原因とする病気で、毎年5万人もの人が亡くなっているということを示しました。
運動不足は、喫煙・高血圧に次ぐ危険因子となっています。
1日に11時間以上座っている人は4時間未満の人と比べ死亡リスクが40%も高まるといわれています。
座りすぎは何がいけないのか
長時間座り続ける間、全身の筋肉の70%が存在する下半身が停止状態になります。特に、ふくらはぎの筋肉は「第2の心臓」といわれるほど重要であり、心臓から離れたところからスムーズに血液を押しもどす役割を担っています。しかし、座り続けていると下半身の筋肉が働かないため、代謝が低下し肥満や糖尿病につながったり、血流悪化によって高血圧の原因にもなります。
歩くことは、主に下半身を動かす活動です。全身の3分の2以上の筋肉を動かすことで、心臓のようにポンプの役目を果たし、代謝や血液循環が良くなります。
そして、この筋肉は使わなければどんどん減少していきます。日本老年医学会の研究データによれば、20歳時と比較すると、80歳時で男性は約17%、女性は約11%減少。特に下半身の筋肉は、男女ともに約30%減少するそうです。さらに下半身の筋肉の衰えは上半身に比べて速いと言われています。
メンタルにも影響がある
座りすぎは、身体面だけでなく、精神面にも影響があることが分かってきています。
1日に12時間以上座っている人は6時間未満の人と比べて、メンタル不調が3倍も多いという調査結果もあります。このことは長時間の座位、つまり労働時間が長いために、疲労やストレスが多いという可能性もあり座っていること以外の様々な要因も考えられると思います。
大切なのは日常の中で動くこと
座りすぎによる健康リスクをなるべく減らすには、座っている時間を少しでも短くすることです。30分に1回立ち上がって動くだけで、座りすぎによるリスクは軽減されると言われています。
自宅では家事を分割して行なうようにし、午前中は動いたけれど午後は全く動かなかったなどのようにならないようにしましょう。身体を動かしながらテレビを見たり、読書や勉強は一定時間毎にストレッチを挟むことがお勧めです。
業務中の簡単な連絡は、メールや内線を使わずに、相手の席に行くようにしたり、こまめに書類やコピーを取りに行ったりして「ちょこまか動く」機会を増やすことが有効です。
仕事や運転業務で立ち上がったり、歩くことができない場合はかかとの上げ下ろし運動をしたり、ふくらはぎをマッサージするなど、エコノミークラス症候群の予防方法を参考にした足の運動をするのが効果的です。
企業が取り組む「座りすぎ」対策
スポーツ庁では社員の健康促進のためにスポーツに親しめる環境づくりを進める企業を「スポーツエールカンパニー」として認定する制度を設けています。2019年度に認定を受けた企業は533社もあり、社員の健康増進に積極的に取り組む企業が増えています。
スタンディングミーティングの実施、朝や昼休みなどに体操・ストレッチをするなどの運動機会の提供や、階段の利用や徒歩・自転車通勤の奨励など、様々な取り組みがされています。
今回は「座りすぎ」についてお伝えしました。
健康のために運動が大切であることは、よく知られていると思います。「座りすぎ」はたかが座りすぎと思われがちですが、健康への影響は深刻なのです。
たいして動いていないのになんだか疲れがとれない。少し動くだけでなんだかだるい。最近そのような不調を聞くことが多くなりました。その不調は「座りすぎ」によるものかも知れません。
今日から「座りすぎ」を減らす生活を始めてみませんか。
著者:金子 綾香
保健師
医療法人社団 平成医会
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