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身体の痛みは心の痛み

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世界疼痛学会によると、「痛み」とは、組織損傷にともなう不快な感覚であり、情動体験であると書かれています。痛みが情動体験と定義されているので意外に感じた人もいるのではないでしょうか。今回は、メンタル不調のサインについて解説します。
メンタルヘルスコラム:身体の痛みは心の痛み

眠れなくなったときはこころのサイン

実は心理的な痛みも肉体的な痛みも、脳の中で同じような反応が起きているといわれています。その証拠に体が痛いと気分が落ち込むことがあります。気分が落ち込むと痛みを強く感じることもあったかもしれません。
さて、ストレスチェック後の高ストレス者のフォローにおいて、「こころの相談窓口を設置しているがほとんど使われない」というお困りごとは少なくないのではないでしょうか。このお悩みの解決につながるヒントが身体の痛みです。実は、高ストレス者の6-8割の人が肩こり・腰痛・頭痛を持っているというデータがあります。

健康を持続していくためには、「食事」「睡眠」「運動」が大切といわれます。その中でも睡眠は人生の3分の1とも言われており、人生80年とすると25年間分にもなります。そのため、心の健康と睡眠の関係は深いとされています。
平成医会の2020年度のストレスチェック(約34,000件)の結果を見ても高ストレス者群の約1/4が、「よく眠れない」という質問に対して、「ほとんどいつもあった」と答えています。「ほとんどいつもあった」と「しばしばあった」を合わせると、約6割になります。

【高ストレス者群】
ほとんどいつもあった  25.7%
しばしばあった     33.2%
ときどきあった     29.3%
ほとんどなかった     11.7%

【健康群】
ほとんどいつもあった  1.3%
しばしばあった     7.2%
ときどきあった     32.7%
ほとんどなかった     58.8%

眠れない理由として、頭痛、肩こり、腰痛など身体的な苦痛の場合もありますが、ストレスなど精神的な苦痛の場合もあります。
ストレスをあまりに強く感じると、体が「敵がいる、命の危機だ!」と認識し、生存のために戦うか逃げるかの準備として闘争・逃走反応を起こします。そうすると、休憩中や睡眠中でも脳や体は休まることなく活動し続けてしまい眠れなくなることがあります。つまり、ストレスを防御するための反応で眠れなくなることがあるのです。
眠れないと疲労が蓄積してしまいます。眠れなくて考え続けることも頭(体)を使うことになりますから、最後に体(フィジカル)にも影響を及ぼしてしまうのです。まるで39℃の熱があるのにマラソンをし続けているような状態だといえます。「眠れない」と診察に患者さんには、ストレスを緩和するカウンセリングを行ったりします。効果がでない時は睡眠薬を処方することもあります。眠れないと、脳内の脳廃物が溜まってしまい神経障害を引き起こしてしまう可能性もあるからです。
脳のメンテナンス機能としても睡眠が関係していることがわかりはじめています。眠れなくなったときは、こころのサインかもしれません。

メンタルヘルスコラム:メンタル不調のサイン

メンタル不調のサイン

ラインケア(管理監督者が部下の様子に気づきメンタルヘルス対策を行うこと)では、管理監督者がいつもと違う従業員の様子に早く気づくことが大切です。しかしいつもと違う様子とは、いったいどのようなことなのでしょうか。
実は、メンタル不調のサインとして、わかりやすいキーワードがあります。

け:欠勤が多い
ち:遅刻・早退が多い
な:泣き言を言う
の:能率の低下
み:ミスが多い
や:辞めたいと言い出す

縦に読んでみてください。「ケチな飲み屋」となります。

それでは、いつ、そのサインに気付けばいいのでしょうか。例えば、「朝、出勤してきたときの挨拶時」です。目覚めて一番活力がある朝の出勤時にいつもと違う様子が見られたら注意です。心配な従業員がいたら挨拶するとき、「最近、調子が悪そうで心配だから、何かあったら声をかけてね。」と伝えてみましょう。
「私が心配しているよ」というI(アイ)メッセージ (自分の思いや考えを伝えること)であることがポイントです。
もし、声をかけて、部下が相談にきてくれるようでしたら、部下の言うことをまずは受けとめましょう。話しの聴き方のコツは「うなずき/あいづち/伝え返し/質問」です。
「私はあなたに注意を向けていますよ」と相手に伝われば、部下は様々なことを話してくれると思います。
また、相談することが結論や解決につながらなくても、不安や悩みを 言葉にすることで考えが整理され、不安が軽減されるカタルシス効果も期待できます。
もし、部下に睡眠や食欲に変化があったとわかった場合は要注意です。
平成医会が実施するカウンセリングでは、睡眠(不眠や早朝覚醒)や食欲(食欲不振や過食)の不調が1週間続いている方には、医療機関の受診をおすすめしています。なぜなら、睡眠や食事は、体調不調に直結し、そのままでは体力が失われて身体が動かなくなってしまう可能性があるからです。
もし、声をかけてから、1週間経っても ご本人から相談がなく、さらにいつもと違う様子が感じられたら、声をかけた上司が、産業医など専門家に一度相談してみてもいいかもしれません。
上司が声をかけておくことは、安全配慮義務にもつながります。
また、従業員に「メンタル不調のサイン」を共有しておくことは、従業員自身の気づきやメンタル不調者の予防にもなります。メンタル不調のサインを敏感にキャッチできるアンテナを持っていたいものです。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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