帰属意識とワークエンゲージメント
2021.04.19
- メンタルヘルス
帰属意識について
帰属意識とは、特定の集団に自分が所属している、その集団の一員であるという意識のことです。家族や企業など、幅広い規模のコミュニティにおいてもちいられます。近年では雇用の流動化や働き方の多様化、非正規社員の増加などにより従業員の帰属意識は低下しつつあるといわれています。帰属意識は企業そのものだけではなく企業が供給するサービスや商品、自分が所属する部署にも存在します。帰属意識の持ち方は社員ごとに異なりますので、帰属意識が高い社員がいれば低い社員もいるのは当然です。
帰属意識が注目されるようになったわけ
終身雇用や年功序列といった制度に崩壊の兆しがみられはじめたことが帰属意識に注目が集まるきっかけになっているようです。転職があたりまえの現代では人材の流動性は高まり、企業は優秀な人材が流出するリスクにも直面することになったのです。帰属意識は意識ですので目にみえるものではありません。そこで、帰属意識を計測するためにつかわれるのが「従業員満足度」や「従業員満足度調査」です。従業員満足度調査は、社員の帰属意識を計測するために多くの企業で実施されています。
帰属意識が最も高いのは会社に入ったときだといわれています。そこからは下がっていき、昇進や昇格が多い7年後あたりに再度上がりはじめるようです。採用のタイミングでは求職者が会社への愛着を感じないと採用してもらえませんので、就職活動自体が帰属意識を高める工程になっています。
一方で、入社後に帰属意識が大きく下がる最大の原因は「入社前に思っていたものと違う」という現実とのギャップです。
テレワークを導入している企業の帰属意識やワークエンゲージメントはどのようになっているのでしょうか。テレワークなどの「場所の自由」と帰属意識の関係性については研究も進んでおり、そこには明確な関係性はないといわれています。出勤しないことで帰属意識が下がるようなイメージもありますがそうではないようです。ただし、年次有給休暇の取りやすさやフレックスタイム制度といった「時間の自由」は帰属意識を高める要因になっているようです。
帰属意識が高いことでのメリット
従業員の帰属意識が高い会社にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは2つのメリットを挙げていきます。
帰属意識が高い職場では、従業員同士の結びつきが強くチームに一体感が生まれやすいというメリットがあります。このような組織では相互での協力関係やコミュニケーションが活性化しやすくなる傾向にあるため業務の効率化や生産性の向上に繋がりやすくなります。
帰属意識が高いと役割外行動が促されます。役割外行動とは職務として定義されていない仕事です。例えば、社内のゴミ拾いや困っている同僚を助けるなどのことです。誰かがやらなければ組織の機能が低下するのが役割外行動です。帰属意識が高い人は会社への愛着から会社の問題を「自分の問題」としてとらえるため役割外行動がより促されるようです。
従業員の帰属意識の高める方法
入社後の帰属意識の下落幅を緩やかにするために帰属意識を保つための方法が3つあります。
① 仕事の種類と裁量の検討
帰属意識を高める仕事の条件は、複雑でさまざまなスキルを使うこと、自律性(裁量)があるの2つだといわれています。単純作業で指示通りにやる仕事は帰属意識が下がりやすくなるともいわれています。社内の小さなことでも良いので、何かしら自主性に任せて問題解決してもらうような仕事を与えてみるとよいでしょう。
② 役割やレポートラインの明確化
自分の役割がよくわからない役割曖昧性も帰属意識を下げてしまいます。担うべき役割を明確にしてあげることで解決に向かいます。また、仕事のやり方が違う複数の上司や先輩がいて板挟みになるような環境でも「役割葛藤」が起こり、帰属意識が下がるといわれていますので注意が必要です。業務報告や意思疎通の系統を明確にしておくとよいでしょう。
③ 上司自ら働きかける
上司のリーダーシップ行動にはタスク機能(仕事の計画ややり方を教える)と、メンテナンス機能(周囲との関係性をメンテナンスする)があります。新入社員に対しては、入社後しばらくは人間関係面の調整を進めることが重要で、「仕事・役割・上司」の3つのうち帰属意識に最も影響が大きいのは上司という結果もでています。
帰属意識をとり巻く現代の流れ
従業員満足度調査が浸透した背景には、所属する企業や仕事への満足度が高いほど顧客満足度も高まるという調査結果が発表されたことにもあります。
反対に帰属意識が注目されなくなったという説もあります。ここで重要なのは、帰属意識が高い社員とパフォーマンスが高い社員は一致しないというです。これは帰属意識が高い人のなかにも、「できる限り楽して給料をもらいたい」や「給料が良いから仕方なく仕事をしている」という考えを持っている可能性があることも考慮にいれなくてはならないということになります。
そして近年、終身雇用で会社依存のキャリア形成から個人の自律したキャリア形成への変化が求められています。働き方改革など労働環境の変化によって、従来のように会社に忠誠心を持って働く時代ではなくなっている一方で、より自分自身に向き合うことができる多様性のある社会になってきたといえるのかもしれません。
著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師
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