職場復帰支援について
2021.07.26
- メンタルヘルス
職場復帰支援とは
職場復帰支援とは、傷病等により長期休業していた労働者の復職を支援するものです。従業員の円滑な職場復帰や再適応を支援することは、企業経営にとって貴重な労働力を確保するうえでも重要です。
現状では労働者の復帰支援に苦慮している企業は少なくないようです。その理由としては、病気自体の難治性や再発率の高さも起因していますが、復帰に向けた仕組み作りが整備されていなかったり、復職させたが適応できず短期間で再休職となってしまったりする場合など、支援体制の不備や不調者への対応の難しさが指摘されています。メンタル疾患の回復状態は休む前の元気な状態に完全に戻るとはかぎらないことや復職のタイミングのよっては本人のみならず、周りの従業員にも影響し結果として職場全体の生産性にも影響してしまうこともあります。
少し古いデータになりますが、厚生労働省がだした労働安全衛生調査(平成25年)ではメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休職した労働者のうち復職をした労働者の割合51.1%で、残りの48.9%が退職しています。
平成29年の厚生労働省研究班の再休職に関する研究では、うつ病になって休職した社員の約半数が復職後に再発し再休職していたとする調査結果をまとめています。その内訳は、復職日から半年で19.1%、1年で28.3%、2年で37.7%、5年で47.1%でした。これらの結果より、メンタルヘルス不調の労働者へのケアやフォローアップが重要であるいえます。
職場復帰支援5つのステップ
平成16年から厚生労働省がメンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰を促進するため、事業場向けマニュアルとして「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表しました。この手引きでは実際の職場復帰にあたり、事業者が行う職場復帰支援の内容を総合的に示しています。職場復帰支援の流れは以下の通りです。
〈第1ステップ〉病気休業の開始及び休業中のケア
労働者から管理監督者に、主治医による診断書(病気休業診断書)が提出されることで休業がはじまります。管理監督者は、人事労務管理スタッフ等に診断書(病気休業診断書)が提出されたことを連絡します。休業する労働者に対しては、傷病手当金などの経済的な保障や休業の最長(保障)期間等の必要な事務手続き、及び職場復帰支援の手順を説明します。療養に専念できるよう、公的または民間の職場復帰支援サービスの紹介や休職期間などの制度的なこともお伝えしておくとよいとされています。
〈第2ステップ〉主治医並びに産業医による職場復帰の可否判断
休業中の労働者から事業者に対し職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます。診断書には、就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします。その際、主治医による職場復帰可能の判断が、必ずしも職場でもとめられる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等の精査を経てとるべき対応を事業場としても判断することが重要です。
あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供し、労働者の状態が就業可能であるという回復レベルに達していることを主治医に判断してもらうとよいでしょう。
〈第3ステップ〉職場復帰の可否判断及び職場復帰支援プランの作成
安全でスムーズな職場復帰を支援するため、最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行ったうえで職場復帰できるか否を適切に判断し、職場復帰を支援するためのプランを作成します。この具体的なプランは復帰中の就業上の配慮など個別具体的な支援内容を定めるもので、事業場内産業保健スタッフ等を中心に、管理監督者、休業中の労働者の間でよく連携しながら進めます。
〈第4ステップ〉最終的な職場復帰の決定
第1~3ステップを踏まえて、事業者による最終的な職場復帰の決定を行います。
〈第5ステップ〉職場復帰後のフォローアップ
職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、必要な職場復帰支援プランの評価や見直しを行います。
職場復帰のポイント
職場復帰にあたりいくつかのポイントがあります。
職場復帰可否の判断基準
職場復帰可否については、個々のケースに応じて総合的な判断が必要です。職場の受け入れ制度や態勢を考慮して、事業場が判断しなければなりません。まず前提として労働者が十分な意欲を示していることや通勤時間帯に一人で安全に通勤ができること、就労が継続して可能であるか、業務に必要な作業が遂行できるかなどが重要な指標となります。
試し出勤制度の利用
正式な職場復帰決定の前に、社内制度として試し出勤制度を設けるという企業もあります。メリットとしては、休業していた労働者の不安の軽減や会社としても判断材料にすることができます。注意点として、試し出勤の際の事故発生時に労災の適用外となる可能性や、休職期間の日数算定の取り扱いなどの課題があります。試し出勤制度には以下のようなものがあります。
勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす。
通勤訓練:
自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する。
試し出勤:
本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。
就業上の配慮
職場復帰は休職前の部署へ復帰させることが原則です。しかし、発症の誘因により配置転換や異動をした方がよい場合もあります。復帰後は労働負荷を軽減し段階的に業務をすすめていくこともなどの工夫や配慮も必要です。例えば、短時間勤務や軽作業や定型業務への従事、残業・深夜業務の調整などがあります。
弊会は、保険診療による精神科ショートケア「復職支援プログラム(リワーク支援)」を提供しており、これまで100名以上の人が受講されました。
弊会が実施しているプログラムの特徴を以下の通りです。
*精神科医、精神保健福祉士、公認心理師、臨床心理士、作業療法士、
キャリアカウンセラーなどの専門職がサポート
2. グループワークとカウンセリングの組み合わせによる徹底した自己理解
3.「ライフキャリア」の視点を取り入れたメンタル面とキャリア面を統合したプログラム
4. 本人・会社・医療機関が密に連携し本人と会社の状況に合わせた精度の高い環境調整
5. 復職後の再休職率の改善(一般には5年以内に約半数が再休職 : 弊会受講者は5.7%〜令和2年9月実績)
再休職を防ぐためには、職場復帰支援サービスの活用が有効だといわれてます。リワーク支援は、各県に設置されている地域障害者職業センターで行われるものや企業内で行われるもの、就労移行支援事業所やEAPで行われるものなど様々な種類があり、それぞれにメリットがあります。
共通していえることは、休職した労働者が休職前と同様もしくはそれ以上に充実した生活を送れるようサポートしている点です。
成人した日本人が過去12カ月に精神障害に罹患した有病率は8.8%といわれており、誰もが環境や置かれた状況次第でメンタル疾患になる可能性があります。これを機に皆さんの勤務先の職場復帰支援の取り組みについて確認してみてはいかがでしょうか。
著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長
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