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社員に理解してもらうための具体的事例

パワハラにあたる言葉とは?
社員に理解してもらうための具体的事例

  • パワハラ
パワハラにあたる言葉について、具体的に紹介します。

パワハラ防止法が中小企業にも義務化されてから、丸2年が経ちました。多くの企業が体制作りや社員研修などの取組みを実施しています。
しかし取組みを行っいるにも関わらず、クリニックを受診される患者様から、ハラスメントを受けたというお話を聴くことが未だにあります。

じっくり時間をかけてお話を聴いていくと、コミュニケーションが少ないことによるコミュニケーションエラーであることが多いと感じます。
ニュースやメディアで見聞きすることが多くなった「ハラスメント」という言葉が、相手をきちんと理解するコミュニケーションを取る前に、この言葉で片付けられているようにも思います。

そもそもパワハラ防止法では、以下の3つの要素を、「職場におけるパワーハラスメントの定義」としました。

職場で行われる、1~3の要素全てを満たす行為をいいます。

1. 優越的な関係を背景とした言動
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
3. 労働者の就業環境が害されるもの

この3つの要素すべてに当てはまる場合に、パワハラに該当するとしています。

ただし、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。」と明示されているのも重要なポイントです。

またパワハラは以下の6類型に分類をされています。

1.暴行・傷害(身体的な攻撃)
2.脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
3.隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
4.業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
5.業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや 仕事を与えないこと(過小な要求)
6.私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

パワハラにあたる可能性の言葉

最近、相談が増えていると感じるのは、上記2番目の精神的な攻撃です。
分類するとおおよそ以下のような言葉になります。

・脅迫
・名誉棄損
・侮辱
・ひどい暴言

言葉を具体的に落とし込んでみると以下のような言葉になってきます。

・脅迫

- 次ミスしたら殴るぞ
- お前の家に火をつけてやる
- 契約が取れるまで帰れると思うな
- 仕事できないのに有給取れるわけないだろ

・名誉棄損

- お前は給料泥棒だ
- 職場の全員に、使えないやつだと言いふらしてやる
- ○○と不倫関係にあるとバラしてやる

・侮辱

- よくお前と結婚する気になれたな
- ブス(ブサイク)だな
- こんな簡単な仕事もできないの?
- 本当に使えないな、お前の親もどうせ頭悪いんだろう

※上記の言葉のみでハラスメントが認定されるものではありません。

過去の判例からの一部抜粋となりますが、生命や身体への危機を感じるような発言、自由が取れない職場環境、労働者の権利行使を妨害する言葉、容姿や外見、人格を否定するような発言など・・・上げればキリがありません。

ついカッとなってしまって・・・は通用しない時代ですので、十分な注意が必要です。発言をする前には、「相手を傷つけないかな?」と、一呼吸おいてから話すことが大切です。
ハラスメントは、上司→部下 に対してイメージしがちですが、部下→上司 でもハラスメントとなりますので、注意が必要です。

過去に相談された事例

コロナ渦でテレワークが一気に進んだ際に起きた、ハラスメント相談事例をお話します。

① 「上司が背景に映る自宅の様子について、質問をしてくる」

これは「私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)」に該当する可能性があります。
相談者は部下の女性、行為者は上司の男性という構図でした。

・一人で住んでいるのか?
・カーテンや家具などの、インテリアについて色々と質問された

私的なことを聞きすぎたことにより、部下(女性)が好意を抱かれているのでは、
と不安になり会社に相談、発覚となりました。
何気ない質問だとしても、受け手によっては不安や恐怖を感じることもあるので、
業務上必要ない質問などは避けることが賢明でしょう。
またオンラインの背景機能をうまく使ったりすることも良いでしょう。

② 「テレワーク中にずっと監視されている」

この相談も多かったです。

今までは職場にいたので、仕事をしていることが目に見えたのですが、
「自宅でできるのか?ちゃんとしているのか?」という疑問もあり、
「カメラONのまま作業をする」
「上司からのチャットにはすぐに返事をする」

などのルールを設けたことで、
常に監視されているというストレスに悩む相談が多くありました。

一見ハラスメントにはならないと思いがちですが、このような不信感から上司とのコミュニケーションエラーが起きていました。

特にチャットでの「テキストコミュニケーションエラー」は非常に多かったです。文字だけだと相手の喜怒哀楽が分からず、意図せぬ形で伝わることが多く、注意が必要です。

言葉だけでなく話し方もパワハラにあたる?

先程あげた言葉などはパワハラと言われてしまう可能性がありますが、言葉だけ気を付けていれば大丈夫ということではありません。
表情や高圧的な態度、声の大きさなども相手に威圧を感じさせます。
相手が恐怖を感じるようなコミュニケーションは、そもそもパワハラと捉えてしまうリスクがあります。
業務指導であったとしても、横柄な態度、大声で言われた場合、相手はどう感じるでしょうか。
注意をする態度や姿勢、声のトーンなどにも配慮が必要です。
業務指導はどうしても行わなければならないシーンはあると思います。私的な感情を入れずに、淡々と事実と改善点をお伝えすることが良いかと思います。
また普段から、相手が話しかけやすい雰囲気になっているか、などもパワハラと言われないためにも重要な要素になってきますので、鏡などで練習してみるのも良いと思います。

パワハラ防止のための効果的な社内規定のポイント

まずは、国が定める「職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき措置」をおさらいしていきましょう。
以下の4つを示しています。

1.事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
4.併せて講ずべき措置

1.事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

「会社として、パワハラは認めない」という意志表示と発信をしていきます。
平成医会でもハラスメントは「しない・させない・見過ごさない」を合言葉として、イントラなどでの社員への発信、朝礼での唱和、全体会議前に唱和など行っております。
どんなに取り組んでいたとして、起きる可能性は否定できません。
起きてしまった場合の対処方法などを就業規則に規定しておくこと、また社員に周知することも明示されています。
誰にでも降りかかる可能性があることをより意識づけしていく意味、また発生時に困らないように事前に決めておくことがよいでしょう。

2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

相談窓口の設置と担当者名を記載したリーフレット作成などを行い、周知・啓発していきましょう。
相談窓口を社内で設ける場合は、男女各1名ずつ(可能であれば男女2名ずつ)が理想的ともいえます。
「セクハラと感じることがあったけど、男性には相談しにくい・・・」
「世代が近い人の方が相談しやすい」

など、相談しやすい体制を整えておくことは大切です。
また行為者が、相談窓口担当者より役職が上だと動きにくいケースもあります。
事前に行為者の役職階級ごとに、報告先を決めておくこともよいでしょう。

ただ「そもそも社内は相談しにくい。広がってしまいそう・・・」という声は多く聞かれます。社内だけだと全ての声を拾うことは難しいかもしれません。
そんなときは、「社外相談窓口」を検討することも良いと思います。社外に設けることで守秘義務への意識は高まり、社員側の安心に繋がります。
代表的な社外相談窓口を提供している機関は、弁護士、社会保険労務士、EAPなどかと思います。
弊会でもハラスメントメールホットラインという、社外相談窓口をご提供しています。「精神科医療機関」がハラスメント相談窓口を提供しているのは違和感を感じる人もいらっしゃるかもしれません。
私たちがハラスメント相談窓口を設けている理由は相談者側、会社側それぞれにメリットがあると思っています。

【相談者側】

【会社側】

・話を聴いてくれそう
・守秘義務を守ってくれる
・中立な立場で話を聴いてくれそう

・デリケートな問題も多く、対応に不安がある
・心理の専門家が相談に乗ってくれるのは安心
・必要と判断したらすぐクリニック受診が
 できる安心

窓口担当者も相談対応には、大きなストレスが生じます。
時には対応に当たっている窓口担当者が不調に陥ってしまうケースもあります。相談者、窓口担当者、行為者、それぞれの立場を理解し、メンタルケアすることは被害の拡大、2次被害の防止などとても重要です。

相談者に対する返信は、「精神科医、臨床心理士、看護師、精神保健福祉士」などの専門家が相談内容をチェックし、対応しています。
ご本人が精神的に不安定な状態になっていることが多く、専門家がフォローアップできること、また身体症状が出ている場合は、カウンセリングやクリニック受診のご案内をするケースもあり、精神科医療機関ならではの強みです。

3.職場におけるパワーハラスメントにかかる
事後の迅速かつ適切な対応

ハラスメント相談がきた際は、まずは放置をせずに相談者に受け取った旨を伝えてください。連絡が無いと相談者はより不安になり、「会社が対応しないのは隠蔽する気だ!」などと、勘違いさせてしまう可能性がありますので、まずは対応する旨をきちんとお伝えいただくことが大切です。

次に、事実関係の確認にはいります。相談者が言っていることが事実とは限りませんので、行為者に対する思い込み(避けられないアンコンシャス・バイアス | 医療法人社団 平成医会 (heisei-ikai.or.jp)を避け、事実関係のみを確認するようにしましょう。相談者、行為者、そして第三者(周囲の人)にヒアリングを行い、判断をするための情報収集を行っていきます。

相談内容によっては、即座に相談者への配慮が必要になることもあります。本人の様子や希望などを聞きながら判断していきましょう。
話を聴くことが安定に繋がるケースもありますが、相談窓口の担当者は、同情など感情移入しやすいため、可能であれば外部機関へカウンセリングなどを依頼することをお勧めします。

事実関係の確認が終わると、会社としての判断を行う段階になります。
相談内容が「事実・誤解」の判断を行い、相談者と行為者(と言われた人)にそれぞれ説明を行います。
事実であった場合には、行為者に対する措置を適正に行います。懲戒に当たらない場合でも、配置転換や相談者への謝罪、関係改善援助などが必要になってきます。また定期的なメンタルケアは必要になってくると思います。
相談者はもちろん、行為者側も精神的に不安定になっていることが多く、相談者のみをケアするのではなく行為者側にも同様のフォローを行うことが望ましいでしょう。

4.再発防止に向けた措置を講ずること
(事実確認ができなかった場合も含む)

もっとも大切になるのが、再防止策になります。解決したからOK、誤解だったからOKではまたいずれ起きる可能性があります。
ハラスメント研修では過去の裁判事例などを出しながら、法令の説明をする研修も有効かと思いますが、会社の規模、風土によっては自分たちでハラスメントルールを作るなど、一歩進んだ取り組みを行いましょう。

ここでは方針の明確・周知啓発、相談窓口設置のポイント、発生時の対応フローなどをお話してきましたが、併せて講ずべき措置として、

「相談者・行為者のプライバシー保護」
「相談したこと等を理由にした解雇その他不利益取扱いをされない」


を定めたうえでの周知、啓発する義務があります。
当たり前のことですが、相談者、行為者ともに相談内容が社内に広がってしまうことは望んでいないでしょう。情報管理に関しては責任も重く、しっかりとした対応を行う必要があります。また相談を理由とした解雇や減給、降格なども禁止です。

例えば役員クラスからハラスメントを受けたと、相談が入った場合に、一方的に解雇をすることなどはできません。
このような点を踏まえ、法令に則り、着実に進めていきましょう。

社内ルールを作っても難しい場合は?

パワハラ防止法は社員を守るためだけの法律ではありません。社員が働きやすく、安心して言い合える職場環境は生産性が高いと言われています。
労働人口が減少の一途をたどるなか、社員が生産性高く働くことで企業が成長できるのではないでしょうか。
ハラスメントは人によって感じ方が違い、企業独自にルールを定めていくことも有効です。皆で考えたハラスメントルールは有効性も高く、皆が意識高く取り組むことができることでしょう。

平成医会では、企業様の風土を深く知り、企業ごとに最適な研修をご提案しています。ワークの時間を多く取る研修や他社での実施例を参考にすることも可能です。
社員の理解を深めるためには、より自分毎に捉えられることが大切になります。
連日ハラスメントに関するニュースを目にする時代ですから、定期的に研修を行い、ブラッシュアップを繰り返していくことで、自社にあったハラスメント体制作りができるのではないでしょうか。

ハラスメント対策は、起きる前の対策がとても重要です。
「会社を守り、社員を守る」体制作りをぜひ進めていただければと思います。