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パーソナルスペースから学ぶコミュニケーション法

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パーソナルスペースは、性別や年齢などによって変わります。自他ともにパーソナルスペースを知ることは、仕事やプライベートで円滑にコミュニケーションを取ることにも役立ちます。今回は、パーソナルスペースについて詳しく解説します。

メンタルヘルスコラム:パーソナルスペースから学ぶコミュニケーション法

電車の中で、空席が多いときに皆さんはどのような席を選びますか。
例えば、端の席や人が座っていればその人とは離れて座ることが多いのではないでしょうか。
これは、パーソナルスペースと深く関係しています。

パーソナルスペースとその心理

パーソナルスペース(Personal space)とは、R・ソマーという心理学者が提唱したもので、対人距離とも呼ばれ、他者が自分に近づくことを許せる限界の範囲、すなわち心理的な縄張りのことです。
人間も動物と同じように、自分の縄張りに勝手に他人が侵入してきてしまうと不快感を覚えます。つまり、防衛本能が働いている状態になるのです。
家族や恋人など親しい間柄になるほどパーソナルスペースの範囲は狭く、他人や苦手な人になるほどパーソナルスペースは広くなるといわれています。
パーソナルスペースには個人差があり、相手との関係性やその場の状況によってパーソナルスペースは変化します。例えば、混んでいるエレベーターに乗っているとき、表示される階数をなんとなく見つめていた経験はありませんか。 これは、パーソナルスペースを他者に犯されているため感じている不快感を別の事に集中することで緩和させているのです。

パーソナルスペースの種類

このように、人は無意識のうちに他者と一定の距離を保ち、ある程度の距離があることが当然という意識が根底にあります。アメリカの文化人類学者、エドワード・T・ホールは、人のパーソナルスペースを相手との関係をふまえて4つに分類しました。

① 公衆距離:3.5m以上
講演会や演説など公式な場で見られ、話す側と聞く側との間に必要とされる広さです。自分と相手との関係が公的な関係ある時に用いられます。社会距離以上に相手と離れているために、相手の顔や表情がよく見えず個人的なやり取りをすることができない距離間です。

② 社会距離:1.2m~3.5m
会社の業務などで同僚や上司・取引先などと接するときにとられる広さです。机越しの対面での商談などがあげられます。仕事の会議や打ち合わせなど、ビジネスや形式的な場面でよく使われる距離感です。

③ 固体距離:45cm~1.2m
お互いの表情が読み取れる距離感でありながら、自分と相手が手を伸ばせば触れることができる広さです。友人や会社の同僚など親しい人であればここまで入っても不快にならないことが多いです。レストランやカフェでテーブル越しに話すくらいの距離感です。

④ 密接距離:0cm~45cm
家族や恋人など極めて親しい関係性の人が入ることを許される範囲となります。
この距離は特に会話をするというよりも配偶者や恋人へのスキンシップや子供を抱きしめたり、抱っこして保護したりが容易にできるような範囲です。

パーソナルスペースの分類はあくまでも目安です。親しくない人に近づかれてもそこまで不快でない人もいれば、距離感があっても不快に感じる人もいます。自分がコミュニケーションを取ろうとしている相手が、どれだけ近づかれたら不快に思うのかを想像し相手の立場になって考えることは、円滑なコミュニケーションを取るためにも大切です。

メンタルヘルスコラム:パーソナルスペースが狭い人と広い人の特徴

パーソナルスペースが狭い人と広い人の特徴

パーソナルスペースが狭いと外交的で人と話すことが好きであったり、みんなで過ごすのが好きな傾向にあります。反対に他者よりも自分に関心が向いている内向的な性格の人は、パーソナルスペースを広くとる傾向にあります。また、ただ親密度が低いというだけではなく、相手が社会的地位が高いと敬意を払い、近い距離を畏れ多く感じて広めに距離をとろうとすることもあります。

男女で違うパーソナルスペースの広さ

一般的に、女性の方が男性よりもパーソナルスペースが狭いと言われていますが、男性と女性ではパーソナルスペースの形が違うとされています。
男性は、前の半径が長く後ろの半径が短い細長い楕円型(正面が約150cm、後ろが約80㎝、左右はそれぞれ約10cm)をしており、視界に入る正面が特に広くなっています。一方女性は、半径が前後左右一定の円(半径約60~70cm)とされています。

年齢によるパーソナルスペースの違い

パーソナルスペースは年齢によっても変化するといわれており、年齢が低くなるほど狭くなります。これは、赤ちゃんや子供は心が動くままに興味がある方へ近づいていくからです。12歳になる頃には大人と同じようにパーソナルスペースを意識しだし、年齢と共に大きくなり、40歳頃をピークにその後は年を重ねるごとに小さくなっていくようです。年齢とは別に、他人への依存度が大きいほどパーソナルスペースが狭くなるという研究結果もあるようです。

自他ともにパーソナルスペースを知ることは、仕事やプライベートで円滑にコミュニケーションを取ることにも役立ちます。パーソナルスペースの範囲には個人差があるので、相手のパーソナルスペースを考えて接することは、相手を思いやることにも繋がります。
仮に、相手のパーソナルスペースが広い場合には、自分は好かれていないのではないかと悲観的にはならず、相手の性格や習慣を気遣うようにしてみてください。また、自分のパーソナルスペースを省みて、相手とのコミュニケーション方法を考えてみても良いのではないでしょうか。
パーソナルスペースについて理解することで、人間関係で余計なストレスを抱えずに、自分を守ることにも繋がるのかもしれません。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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