ノーマライゼーションから考える共生社会
2021.09.21
- コラム
ノーマライゼーションの意味
ノーマライゼーションとは、障害者や高齢者を特別視することなく、皆が平等に暮らしていけるように社会基盤や福祉の充実を整備していく取り組みのことです。社会的弱者に変化を求めるのではなく、社会のあり方そのものを変えることで、誰もが役割を持って自分らしい生き方を追求することを目指します。従来の障害者福祉では、障害者に対して隔離や保護という観点で対応がなされてきました。一般の健常者と同様の社会環境や条件に極力近づけていけるようとするノーマライゼーションの取り組みは画期的なものでした。
バリアフリーやユニバーサルデザインとの違い
バリアフリーという言葉のほうが聞きなじみがある人が多いのではないでしょうか。
バリアフリーとは、障害者や高齢者、小さな子どもが日々の生活のなかで支障となっているバリア(障壁)をなくすことです。ノーマライゼーションを実現するための手段の一つといえます。
具体的には、建物などの段差や仕切りをなくしてスロープを設置したり、目が不自由な人のために音声案内を導入したりといったことがあげられます。設備といったハード面のみならず、社会制度や人々の意識、情報などの大きな枠組みのなかでバリアをなくすという視点が重要です。
一方、ユニバーサルデザインは障害の有無や性別・年齢・国・人種などにかかわらず、すべての人が利用しやすいようにデザインするという考え方です。バリアフリーとの違いは既存の障害を改善するものではなく、設計段階で誰にでも利用しやすいデザインにすることです身近なものでは、シャンプーのボトルやトイレやエスカレーターなどを絵文字で表記したピクトサイン、自動ドアのデザイン、多目的トイレなどがあります。
ノーマライゼーションの歴史
ノーマライゼーションは第二次世界大戦終了後の1950年代にデンマークで発祥した概念です。
知的障害者が施設の中で劣悪な環境に収容されている処遇に心を痛めたN・E・バンク-ミケルセンが提唱しました。ミケルセンは当時社会省の行政官として働いており、「どのような障害があろうと一般の市民と同じような生活と権利が保障されるべきだ」と訴えたことが社会的な運動に発展し、1959年に知的障害者福祉法が制定されました。
ミケルセンが提唱したノーマライゼーションの理念を国際的に広める役割を担ったのが、スウェーデン知的障害児者連盟のベンクト・ニリィエです。ニリィエは、ノーマライゼーションを8つの原則にまとめ、アメリカにこの考え方が広まったことで、ノーマライゼーションの概念が世界中に浸透していきました。その後は、「国連知的障害者権利宣言(1971年)」、「国連障害者権利宣言(1975年)」のベースにもなり、日本においては、1981年に国連総会が宣言した「国際障害者年」をきっかけにノーマライゼーションの考え方が取り入れられ、教育や福祉、介護など様々な分野で展開されてきました。
また、障害者基本法に基づき、ノーマライゼーションの基本理念に則った政策を策定したことや1997年には「ノーマライゼーション7カ年戦略」が掲げられ様々な取り組みがなされました。
日本でのノーマライゼーションの取り組み
厚生労働省はノーマライゼーションを「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指す」と定義しています。
障害者の社会参加や自立には、行政だけでなく企業等も連携して支援体制を整備することが必要です。
障害者雇用促進法はノーマライゼーションの考え方をふくんだ法律といえます。すべての国民が障害の有無にかかわらずに、個人として尊重されることがかかげられ、事業者は障害者を区別せず、1人の労働者として活躍できる場を提供することが重要であると定められています。
企業の実際
一定の基準以上の従業員を雇用している事業主には、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。令和3年3月1日から、民間企業は2.3%、国、地方公共団体は2.6%、都道府県等の教育委員会は2.5%の障害者を雇用する必要があり、その範囲も従業員45.5人以上から43.5人以上に変更されました。さらに、障害者の雇用の促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」を選任するよう努めることや5人以上の障害者を雇用する事業所においては、「障害者職業生活相談員」を選任し、その者に障害者の職業生活全般においての相談、指導を行うことが明記されました。
企業が障害者を雇用するにあたっては、障害者雇用納付金制度や精神障害者等ステップアップ雇用奨励金、特定就業困難者雇用開発助成金など、さまざまな金銭的補助が用意されています。
厚生労働省が発表した令和2年障害者雇用状況によると、法定雇用率(2.2%)を満たしている法定雇用率達成企業の割合は 48.6%(前年比 0.6 ポイント上昇)です。17年連続で過去最高となっていますが、半分に満たないのが現状です。ノーマライゼーションの観点から、必要なサポートができる体制を整え、全ての従業員がそれぞれの個性や長所を活かして働ける職場にすることが重要です。
皆さまのお勤めの会社はいかがでしょうか。「ダイバーシティ」という言葉も注目されているように、多様な人材がそれぞれの垣根を越えて共生していく社会が求められ、企業の発展にもつながるべく考え方になります。これを機にノーマライゼーションの理念を理解したうえで、理想の社会や働き方について考えてみてはいかがでしょうか。
著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師
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