メンタルヘルスの医療法人社団 平成医会
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健康のためのやる気スイッチ

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分かっているのに、やる気スイッチがなかなかONにならないことがあります。健康によいとされる行動を「健康行動」と呼びます。健康行動のメカニズムを知って、健康のためのやる気スイッチをONにしましょう。

メンタルヘルス:健康のためのやる気スイッチ

人々はなぜ受診をするのか

わが国において、子どもの頃から一度も医療機関にかからずに大人になった方はいないと思います。なぜ私たちは医療機関を受診するのか、皆さまは考えたことがありますか?

健康とは

そもそも「健康」とは何かと聞かれた時、みなさんはどのように答えますか?
「病気でないこと」「元気なこと」「食事が美味しいこと」など、色々な答えがあるかと思います。
WHO(世界保健機関)憲章では、その前文の中で「健康」について、次のように定義しています。

『Health is a state of complete physical,mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. 』
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、
そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

(日本WHO協会訳)

こちらは国際的な定義ですので、参考までに知っておいていただければと思います。
着目すべき点は肉体面だけではなく、精神面と社会面も含めてこその「健康」ということです。

健康行動理論

医療機関を受診すること(以下、受診行動)は「健康行動」の一つです。
健康によいとされる行動を「健康行動」と呼びます。
健康行動の分野において最も頻繁に用いられる理論として、Health Belief Model(ヘルスビリーフモデル:HBM)があります。今回はHBMについてお話します。

Health Belief Model(健康信念モデル)

HBMでは、人が健康行動をとる可能性を高める主な要因として、以下の2つを挙げており、2つの条件が同時に満たされることが必要であると考えられています。

1つ目は、病気に対して危機感を認識すること (脅威の認識)
2つ目は、健康行動をとることの便益がその障害を上回ると認識すること
(メリットとデメリットのバランス)

1つ目で示している病気に対しての危機感を感じるには、以下の「可能性」と「重大さ」の両方を認識する必要があります。

可能性の認識:このままだと、自分が病気や合併症になる可能性が高いと感じること
重大さの認識:自分が病気や合併症になったとしたら、その結果が重大であると感じること
(健康面・経済面・社会面などで)

また、2つ目で示した「障害」とは、幅広い意味でその人がその行動をとることによって認識すると予測される負の効用の要素のことです。具体的には「楽しくない」「難しい」「費用が高い」「危険である」「不便である」「時間がかかる」などがあります。

健康行動の一例

「理論」と聞くと、難しいことのように感じますが、みなさんは無意識のうちに「健康行動」をとっています。例として、風邪をひいたケースで考えてみます。

『風邪をひいてしまったようだ。なんとなく寒気がする。最近仕事が忙しく、寝不足が続いていたし、
きちんと食事をとっていなかった。しかも、週末は家族との大事な予定が入っている。』

この状況になったら、大半の人は「まずいなぁ」と思いますね。

みなさんならどう対処しますか?
「今日は残業せずに退社して家でゆっくりしよう」「今夜は早く寝よう」「夕食は栄養バランスのとれたものを食べよう」「家にある風邪薬を飲もう」「医療機関を受診しておこう」など、様々な行動が思い浮かぶのではないでしょうか。
これらはすべて健康行動です。みなさんがこのような対処をしようと思うのは、「このままだと風邪が悪化しそうだ」と可能性を認識し、「風邪をひいてしまったら、週末の大事な予定に支障をきたす」と重大さを認識するからなのです。そして、これらの行動をとることの障害(仕事の調整や他のやる事を後回しにすること、風邪薬の費用や受診の手間など)よりも、風邪が治ることのメリットが大きいと考えているからです。

異なる状況では、健康行動の内容も違ってきますが、病気の内容を問わずに様々な状況下で考えることが出来ます。但し、認識には個人差があるため、早い段階で行動する人もいれば、なかなか行動しない人がいるのも現実です。

メンタルヘルス:健やる気スイッチが入らないとき

やる気スイッチが入らないとき

人は、健康行動のメリットとデメリットのバランスが、メリット側に傾いている時は、健康行動のやる気が高まり、デメリット側に傾いている時は、やる気にはなりにくいということになります。
そのような時には、健康行動を行うことを妨げている要因をできるだけ減らすことが必要です。

例えば、健診で「要受診」となっているのに、受診行動をせずに時間が経ってしまっている人がいるとします。心のどこかでは、受診した方が良いと思いつつも受診しない(できない)要因はどんなことがあるでしょうか。「忙しくて時間がない」「受診の方法がわからない」「受診は費用がかかる」などがあるかもしれません。
受診行動の可能性を高めるには、まず受診のメリットと受診を妨げている要因をリストアップしてみると良いでしょう。そしてメリットとして挙げたもののうち、特に自分にとって重要だと思うものについて情報を集めることで、メリットに対する認識が高まります。次に受診の妨げとなっている要因のうち、特に自分にとって強い妨げになっていると思うものについて、それを減らす(除く)工夫をすることです。そうすることでメリットとデメリットのバランスがメリット側に傾き、受診行動の可能性が高まると考えられます。

このような考え方は、「健康行動」の様々な場面で応用できます。
心身、そして社会的にも「健康」でいることは、みなさんが生きていく上でとても大切なことです。
健康のためにやった方が良いけれど、取り組めていないことがあるのであれば、ぜひ一度考えてみてはいかがでしょうか。


著者:金子 綾香
保健師
医療法人社団 平成医会


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