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飲酒とメンタルヘルスとの関係

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適量の飲酒であれば健康効果があるとされているアルコールですが、最新の研究では適量であっても脳に重大な影響を及ぼす可能性があると指摘されています。今回は、お酒が及ぼす脳への影響について、メンタルヘルスの視点から考察します。

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飲酒は適量を守ることで、ストレス解消や食欲増進などに繋がり、善玉コレステロールの増加に伴い動脈硬化の危険も減少させる効果があるといわれています。
厚生労働省は、健康の維持向上をはかるために「健康日本21」という基本指針を推進しています。この指針では、1日当たりのアルコール摂取量は20g程度が適当であり、女性は男性よりも少ない量が推奨されています。さらに、アルコールの摂取量が男性で40g以上、女性で20g以上になると生活習慣病のリスクが高まり、男性では15.8%、女性では8.8%の人がそれに該当するようです。ちなみに、アルコール摂取量20gとは、ビール500ml、25度焼酎なら100ml、ワイン2杯、日本酒1合弱程度に相当します。
また、1日の飲酒量がこの3倍以上になるとアルコール依存症になるリスクが高まるといわれています。
自殺のリスクについては、国立がん研究センター予防研究グループのデータによると、日本酒に換算して1日3合(約540ml)飲む人は通常の2.3倍高まるとのことです。

お酒が及ぼす脳への影響

適量の飲酒であれば健康効果があるとされているアルコールですが、最新の研究では適量であっても脳に重大な影響を及ぼす可能性があると指摘されています。
イギリスのオックスフォード大学とロンドン大学の研究チームが飲酒に関しての研究結果を示し、2017年にブリティッシュ メディカル ジャーナルというイギリスの医学誌に掲載されました。この研究は、男女550人(平均年齢43歳)を対象に脳のMRI検査を受けてもらい、過去30年間のデータを解析して1週間のアルコール摂取量と脳の変化を調べたものでした。
研究では、飲酒量が多いことで記憶や空間認知をつかさどる海馬が委縮するリスクが高いことが分かりました。さらに驚くのは、多量飲酒のグループではお酒を飲まないグループに比べて海馬の萎縮リスクが5.8倍高かっただけではなく、適量飲酒のグループでも海馬の萎縮リスクは3.4倍と高かったということです。 結果として、適量であっても飲酒することで海馬が萎縮するという脳に有害な影響を及ぼすということが明らかになりました。 過去の研究では、多くの飲酒量を継続した場合に脳に悪影響を及ぼすというものでしたが、今回の研究では飲酒が適量であっても脳に影響がある可能性が示唆されたのです。

お酒とメンタルヘルス

不適切な飲酒を続けると肝臓疾患や循環器疾患、がんなどの病気の原因になるだけでなく、うつ病やアルコール依存症といったメンタルヘルスの問題を引き起こす原因にもなります。そのため、アルコールが抜けると不安感が出てきたり、高揚感を味わいたいという感覚に陥るという状態はメンタルヘルスに影響を及ぼしかねません。
アルコールに依存することの弊害

アルコールに依存することの弊害

アルコールに依存するようになると、以下のようにメンタルヘルスにも悪影響を及ぼすことがあります。

① 抗うつ薬が効きにくくなる

飲酒量が増えると、抗うつ薬が効きにくくなるといわれています。
薬には適切な効果が得られる血中濃度というものがあり、アルコールを摂取することで、抗うつ剤の血中濃度が不安定になります。そのため効果が弱まったり、薬が効き過ぎてしまうことがあるのです。

② ドーパミンの分泌に身体が慣れる

お酒を飲むと気分が高揚し、普段話すことが苦手な人が陽気になり会話をし始めるということがありますが、これはお酒を飲むことでドーパミンが分泌されることが関係しています。ドーパミンとは、幸せホルモンともいわれ、喜びを感じた時や達成感を味わったりした時に分泌されるホルモンです。
しかし、飲酒によりドーパミンを分泌させていると、その感覚に慣れてしまい耐性がつきます。そして、気分の高揚を期待し飲酒量が増え続けていくと、お酒に依存してしまうことになるのです。

③ 睡眠が浅くなる

飲酒量が増えることで、 眠りが浅くなり睡眠の質が低下していきます。お酒は睡眠に様々な影響を与えるのです。寝つきが悪いからといって寝酒をする人がいますが、アルコールが覚めてくると交感神経の活動が高まり目覚めやすくなるので注意が必要です。さらに、アルコールを摂取し続けると耐性がつくため多量の飲酒をしても寝つきが悪くなり、長時間のアルコール摂取が翌日のパフォーマンス低下にも繋がります。

いかかでしたでしょうか。お酒は、適切に飲むことで楽しい気分になったり、会話が弾むきっかけにもなるかもしれません。しかし、その度合いが過ぎてしまうと心身共に増大な悪影響を及ぼします。
皆さまもこの機会に飲酒量や飲酒をコントロールできているかなど、自身のお酒との向き合い方について考えてみてはいかがでしょうか。
また、飲酒についての問題が本人だけにとどまらず社会生活や家族関係にも影響がみられる場合には、専門の医療機関への受診も検討してみるとよいでしょう。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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