苦手な人に対する心理と防衛機制
2021.01.25
- メンタルヘルス
自分を守る心理メカニズム防衛機制
心が傷つくことを避けるための機能である防衛機制は不安やストレスを軽減するための心理メカニズムであり、私たちの精神的な安定に重要な役割をもっています。
防衛機制は、精神分析学の創始者であるジークムント・フロイトが考えられた概念であり、後にフロイトの娘のアンナ・フロイトや児童分析家のメラニー・クラインによって、防衛機制という概念がより整理されていきました。
私たちは日常の些細なことにも防衛機制を使っているといわれています。ただし、防衛機制が働きすぎると問題を先送りするだけで根本的な解決にならないことがあります。
防衛機制の4段階
防衛機制の種類によって、人の心の成熟度が現れるといいます。ハーバード大学医学部の教授であるジョージ・E・ヴァイラントは防衛機制を以下の4段階にわけしました。防衛機制だけでその人の心の成熟度が測れる訳ではありませんが、1つの指標としては役立ちます。
① 病理的防衛
最も原始的な防衛機制であり5歳以前の子どもに多くみられます。
病理的防衛は精神疾患においてもよくみられるとされています。
精神病的防衛には次のような防衛機制があります。
否認
否認とは受け入れがたい現実、不快な体験を心を閉ざすことによって、現実を認識しないようにすることです。否認の特徴は知覚したうえで、その現実や体験をかたくなに認めないという特徴があります。
〈例〉大きな病気を告知されたときに、私は健康そのものだと事実を全く認めようとしない。
投影
自分の中の抑圧された感情や願望を他人が持っていることにして自分を守ろうとする心の働きです。
〈例〉苦手な人を自分が避けているのではなく、相手が自分を避けているのだと認識する。
② 未熟な防衛
3歳から15歳の子どもにみられる防衛機制といわれていますが、成人にもみられることがあります。
精神的な苦痛を軽減する効果があるとされながら、頻発すると人間関係や社会生活に障害をもたらすことあるようです。
退行
受け入れがたい状況に直面したときに、現在の自分よりも幼い発達段階に戻り困難を回避しようとすることです。不安なときに他人の話を鵜吞みにしやすくなったりする現象も退行の一種といわれています。
〈例〉弟が生まれたことをきっかけに赤ちゃん返りをする。
③ 神経症的な防衛
成人でもよく認められる防衛機制であり、日常生活で支障のない程度のものは問題ないとされています。
抑圧
最も基本的な防衛機制で、思い出したくない不快な記憶・感情・思考などを無意識の中に押し込めてなかったことのようにすることです。
〈例〉過去のつらい記憶を忘れる。
逃避
ストレスや困難から心理的にも物理的にも逃れようとする心の働きです。逃避には、現実逃避、空想逃避、病気への逃避の3パターンがあるといわれています。
現実への逃避…本来関係のない別の行動に没頭して気を紛らわそうとする逃避行動。
空想への逃避…空想の世界で現実には満たされない自己実現をこころみる。
病気への逃避…病気を理由に逃れようとする。
反動形成
簡単には受け入れられない考えや不快な感情に抵抗するために、それとは反対の行動や態度を取ることです。
反動形成は本心とは正反対の言動を取り続けることになるため、ストレスが蓄積されやすくなります。
〈例〉嫌いな相手に丁寧に接する。
合理化
満たされない欲求や受け入れがたい現実に対して、もっともらしい理由を付けて納得させることです。
〈例〉スキーに行きたかったが寝坊していけず、行っていれば怪我をしていたかもしれないと考える。
代償
特定の対象に向けられた欲求や衝動を他の対象に向けてほかのものに置き換えることで自分を納得させることです。
〈例〉高価なブランドの財布が欲しいが予算オーバーなのでノーブランドの似たデザインのものを買う。
④ 成熟した防衛
成熟した防衛は、12歳以降で用いられ精神的健康や社会適応、豊かな人生を歩むために適した防衛機制といえます。病理的防衛、未熟な防衛、神経症的防衛を制御するうえでも重要です。無意識ではなく意識して行われる防衛機制です。意識することで自然と強化され止めてしまうと、病理的防衛、未熟な防衛、神経症的防衛にもどってしまいます。
同一視
他人のよいところを自分自身と重ねて自己評価を高め欲求をみたそうとすることです。
〈例〉 理想とする先輩や尊敬する上司の振舞いや特徴を真似る。
昇華
社会的には認められないであろう欲求や衝動を学問や芸術活動など社会的に望ましいとされる方向に変化させることです。
〈例〉社会に対する反骨精神を歌にして多くの人に感動を与える。
補償
失敗や劣等感を感じたときに他の分野で成果をだして傷付いた心を埋め合わせることです。
〈例〉プライベートがうまくいっていない人が仕事で成果を出す。
皆さまはどの防衛機制をよく使っていましたか。
防衛機制を4つの段階に分けて説明しましたが、成人した人でも低いレベルの防衛機制を使うこともあります。注意すべきはその頻度です。未熟な防衛機制をつかってばかりいると、現実に適応するのが難しく、人間関係のトラブルにもつながることがあります。時には防衛機制から離れてかかえている問題に直面化し、自分自身の行動や考え方を振り返ってみることで、自分を知ることができます。
対人関係に活かすならば、周囲の人を振り回す人物がいる場合には、その人の行動にどの防衛機制が働いているかを考えてみると良いでしょう。前述したように、防衛機制は低次元のものほど無意識に行っているため、その行動を変えるのは非常に難しいといえます。
フロイトとヴァイラントはそれぞれ 「最も高いレベルの防衛機制はユーモアである」、「人間関係の緊張を緩和するうえでユーモアほど効果的なものはない。不快感をユーモアで示すことが重要である」と述べています。これを機会に人間関係やコミュニケーションの取り方について考えてみてはいかがでしょうか。
著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師
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