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企業におけるメンタルヘルスケアの重要性

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企業におけるメンタルヘルスケアの重要性 働き方改革やパワハラ防止法に対応するためにも、企業はメンタルヘルスケア対策に取り組まなければなりません。まずはメンタル不調者を出さないために日頃から従業員の小さな変化に気づけることが重要です。そのためにはどのようなポイントがあるのか解説します。
業務ストレスがかかり、メンタルヘルスケアを怠ったため生産性が低下する組織

企業とメンタルヘルスケア

事業主には「業務による健康上の問題が労働者に起こらないように配慮する」安全配慮義務が課せられています。(労働者への配慮(労働契約法5条):使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をする。)

企業におけるメンタルヘルスケアの重要性について考えます。
メンタルヘルスケアを行うことで組織の生産性の低下を防ぎます。東京大学の調査によると、体調不良の人は健康な時と比べパフォーマンスが低下し、体調不良のまま仕事を続けることで社員1人あたり最大約150万円/年の損失になるようです。
また、企業イメージの向上や社会的責任を負っていることからもメンタルヘルスケアは重要といえます。

令和6年の労働安全衛生調査では、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は68.3%(令和5年調査82.7%)となっていました。その内訳は、高い順から、「仕事の量(43.2%)」、「仕事の失敗、責任の発生等(36.2%)」、「仕事の質(26.4%)」となります。

メンタル不調への気づき

メンタル不調のなかでもうつ病は、誰にでもかかる可能性のある病気といえます。
職場で働く仲間に、以下のようなことがみられるときに注意が必要かもしれません。うつ病のサインは自分では気づきにくいものですので周りの配慮が大切です。
うつ病のサインに気づいたら、声をかけて負担にならないように話を聞いてみてください。

〇勤怠が安定しない:遅刻や早退が増えた、欠勤することが増えた。
〇仕事の能率:仕事の効率や判断力の低下、ミスが多くみられる。
〇会話:周囲との会話が減った、口数が減った。
〇表情:顔色が悪い、元気がない、表情がくらい。
〇身体の症状:頭痛、倦怠感、微熱、吐き気などの訴えがある。

声かけをするときには注意しなくてはならない点があります。
例えば、「気持ちの問題だよ、気合でのりきろう」、「期待しているから頑張ってよ」などの励ましや、「みんな辛いなか頑張ってるんだよ」のような非難されたと誤解される表現は避けたほうがよいでしょう。心配な気持ちを伝え傾聴することが重要です。

また、うつ病の症状が悪化した際に将来を悲観して仕事を辞めることを考える人もいます。症状が回復することで考え方が変わることもあるので、重要な決断は病気が回復してから行うよう促すことも大切です。対応することに不安がある場合は、会社の産業医・看護職・心理職などの産業保健スタッフや、人事担当者、社外の専門相談機関などに相談してみてもよいでしょう。

メンタルヘルスケアを行う管理職とチームメンバー

メンタル不調をふせぐ方法

①ストレスに注意を払う

ストレスが高まったり、蓄積したりすると、心や体、行動にさまざまな変化があらわれます。
たとえば、身体面では「疲れがとれにくい」「胃腸の調子が悪い」「眠りが浅い」など。心理・感情面では「気分が晴れない」「イライラする」「落ち着かない」「悲観的・攻撃的になる」などが見られます。行動面では「人付き合いを避ける」「食生活の乱れ」「喫煙・飲酒量の増加」「約束を守れなくなる」「身だしなみに無頓着になる」などの変化が現れることもあります。

こうしたサインに早く気づくことが、うつ病などの予防につながります。

ストレスは、個々の「対処力」によって反応が異なりますが、強いストレス反応が長く続くと、心身に不調をきたすことがあります。
心の反応としては神経症やうつ病、体の反応としては自律神経失調症、行動の反応としては反社会的行動や依存症などに発展することもあります。
周囲の家族や同僚、友人があなたを心配して声をかけてくれたときは、その言葉に耳を傾けてみましょう。また、昇進や結婚などの一見「良い出来事」でも、実はストレスを感じることがあります。心身の不調が続くときは、最近の生活を少し振り返ってみるのも大切です。

②相談をする

話しを聞いてもらうということは、聞いてもらえるような人間関係を構築しておく必要があります。
相談することは簡単なことだと思っていても、いざ悩みを抱えると誰に相談して良いのか分からくなることもあります。社内に限定せずに話しを聞いてもらえる関係性を作っておくことは、自身のメンタルを安定させるためにも重要です。自分ひとりで解決しようとして、ネガティブな感情をためこむことで自分を追い込んでしまうこともあります。相談できるスキルを身に付けてみてください。

皆さまの職場には、最近調子が悪そうな人はいませんか。もし、そのような人がいたらお声がけしてみてください。あなたの一言で救わる人がいるかもしれません。これを機に、職場のメンタルヘルスの向上についても考えてみるとよいでしょう。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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