メンタルヘルスの医療法人社団 平成医会
トップ コラム コンフォートゾーンと自己成長

コンフォートゾーンと自己成長

  • コラム
  • 心理学
コンフォートゾーン(Comfort zone)とは、安心・安全に過ごせる領域のことです。 周りの環境や行動範囲などの空間に加えて、行動内容や人間関係といった目に見えない概念にもコンフォートゾーンは存在します。今回はコンフォートゾーンについて解説します。

コンフォートゾーンについて

コンフォートゾーンにいることは安定した精神状態が保てるため良いのではないかと一見思われがちですが、現状に甘んじていて新たな挑戦や自己成長の機会を失っている状態ともいえます。このようにコンフォートゾーンとは、ストレスや不安を感じずに過ごせる、慣れ親しんだ心理的に安全な領域のことです。例えば、慣れ親しんだ人間関係や仕事内容などが挙げられます。
コンフォートゾーンにいると、精神的な安定は得られますが、現状維持を続けていることになるため、新たな挑戦や成長につながりません。

人には変化を止めようとする性質があります。変化を拒んで一定の状態を維持しようとする「心理的ホメオスタシス(恒常性)」というメカニズムが働いているからです。このメカニズムにより、外部からの 働きかけや自身の強い意志がなければ、現状維持をするようになります。

ラーニングゾーンとパニックゾーン

米国ミシシッピ大学ビジネススクール教授のノエル・M・ティシー氏は、成長に関する環境を三つに分類しました。コンフォートゾーン、ラーニングゾーン、パニックゾーンです。
一番安心できる精神状態の場所をコンフォートゾーンとすると、その一歩外側をラーニングゾーン、さらにその外側をパニックゾーンと定義します。外側にいくにつれて、未知の領域が広がり、不安やストレスが増加します。コンフォートゾーンから出て適度なストレス状態であるラーニングゾーンに身を置いたときに、人は成長すると考えられています。一方で、負荷が高すぎるとパニックゾーンに移行し、成長するどころか心身に支障をきたしてしまうことがあるので注意が必要です。

〇ラーニングゾーン

コンフォートゾーンのひとつ外側にあり、未経験の領域や現状よりもハイレベルな要求をされる領域です。 自分の能力や慣れた範囲の少し外にあたり、新しい刺激や成長の機会を得られる領域でもあります。 本人にとっては不安やストレスを感じる環境ではありますが、全く自分の力や慣れ親しんできたことが通じないわけではなく、これまでの経験を活かしながら挑戦することができます。また、現状から 一歩外へ踏み出した場所なので、環境に慣れるためには相応な努力は必要とします。

〇パニックゾーン

ラーニングゾーンのもう一つ外にある領域です。この領域では、これまでの経験や能力が全く通用せず、ストレスや不安が過度にかかりすぎるため、恐怖を感じてしまい、混乱する領域のことです。失敗が許されず、助けてくれる人が周りにいないなどといった厳しい環境の場合にも、ラーニングゾーンを超えてパニックゾーンに陥ってしまいます。例えば、高過ぎる目標を課せられる、まったく経験がない仕事内容を任されるといった例があげられます。

コンフォートゾーンを抜けださないでいると生じるデメリット

コンフォートゾーンは居心地が良いので、そのままでいいと考える人も少なくありません。
しかし、コンフォートゾーンを抜けださないことでデメリットもあります。
例えば、会社の成長を阻害してしまう要因につながることがあります。
新しい挑戦やこれまでの業務の見直しは、企業にとって継続して取り組むべき課題です。

コンフォートゾーンから抜け出せない従業員が多くいると、現状維持でよいという考え方になりがちです。例えば、チームや部下が新しいことをしようとすると「これが会社のやり方だから」「今まで通りで問題はなかった」と現状を維持しようとします。現状維持は緩やかな後退を意味しており、事業活動全体においては悪影響を与えてしまいます。この状況が続くと、この会社では成長できないと感じる従業員が増えてしまう可能性もあります。結果として、周りのモチベーションを下げるだけではなく、優秀な人材が退職してしまうということにも繋がるかもしれません。

コラム|コンフォートゾーンと自己成長

コンフォートゾーンを抜けだすメリット

コンフォートゾーンを抜けだすとどんなメリットがあるのでしょうか。

◎自信につながる

仕事でコンフォートゾーンを抜けだすと、成功体験ができるため、自分の成長や自信につながり自己肯定感も上がっていきます。
最初のうちは慣れないことが多く、ストレスに感じることもあるかもしれませんが、その中でできることが増えていくと、自信につながります。

◎作業効率や生産性が高まる

どのように対処すれば問題を解決できるのか、省ける作業工程はないのかなど、今までの枠組みにとらわれずに柔軟な思考が求められるため、作業効率や生産性が高まります。
また、保有するスキルよりも少し高めの内容に挑戦できると、適度な難易度の課題に挑戦できて、集中力を高めながら作業に取り組めます。

コンフォートゾーンを抜けだすための方法

コンフォートゾーンから抜けだす方法をご紹介します。

▶︎自分の立ち位置を把握する

まずは、自分がコンフォートゾーンにいるのか、あるいはラーニングゾーンやパニックゾーンにいるのかを把握します。判断する基準は、ストレスや緊張感をどれほど感じているかです。
仕事の場面で、常に落ち着いた状態で慣れたタスクをこなしているのであれば、コンフォートゾーンにいるといえます。一方で、新しい仕事に取り組んだり、緊張感を感じる場合には、コンフォートゾーンから抜けだして仕事をしている状態です。普段の自分の仕事のやり方を客観的に振り返って、自分の立ち位置を確認してみてください。

▶︎自分より能力が高い人と過ごす時間を増やす

自分ひとりの力だけで達成が難しいと感じる場合には、周りの人の力を借りるとよいでしょう。
自分より能力の高い上司や先輩が近くにいれば、その人と過ごす時間を増やしてみましょう。
能力が高い人の考え方や行動パターンを分かり、コンフォートゾーンを抜け出すヒントになるかもしれません。

▶︎同じ目標に取り組む仲間を作る

一人の力ではパニックゾーンにあたるような難しいことでも、協力すればちょうど良い負荷で進められることもあります。そして、自分が仲間のコンフォートゾーンを広げるためのきっかけになれるかもしれません。そして、仲間ともよりよい関係性を築くことができるかもしれません。

▶︎他者からフィードバックをもらう機会を増やす

客観的な視点でみてみると、自分にはみえていない課題がみつかることがあります。
自分からフィードバックをもらう機会を増やすとよいでしょう。
時にはフィードバックをもらって落ち込んでしまうこともあるかもしれませんが、自分そのものを悪く思うのではなく、行動レベルでフィードバック内容を解釈すると、前向きにとらえることができます。

▶︎モチベーションを保つ仕組みを作る

大きな目標を持っている人は、目標到達までの道のりが長くモチベーションを保つことに苦労するかもしれません。そのような時には、モチベーションを保つ仕組み作りをします。
例えば、目標の途中にご褒美をつくる、疲れる前に適度な休憩を取る、目標までの到達度を可視化するなどです。自分が今までどのようにモチベーションを保ってきたかを思い出しながら、自分にあった仕組みを構築していきましょう。

仕事において、コンフォートゾーンから抜けだすためには、本人の努力だけでは難しいこともあります。そこで重要なのが、職場環境です。職場環境の心理的安全性を確保できると、新たな挑戦への心理的ハードルを下げることができます。社内の心理的安全性を高めるためには、発言しやすい雰囲気をつくること、何でも相談できる人間関係の構築といったことに、日頃から取り組んでいくことが大切です。この機会に、自分は今どの領域にいるのか考えてみるのもよいのではないでしょうか。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


当コンテンツの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
コラムについてのご質問やご意見は、メールでお寄せください。お電話でのお問い合わせは恐れ入りますがご遠慮ください。