仕事をするうえで大事にしていること
~キャリア・アンカー~
2024.02.02
- コラム
キャリア・アンカーとは
船を一定の場所に留めるために、海底に沈めておく“おもり”を、錨(アンカー)と呼びます。組織心理学者のエドガー・シャイン博士は、キャリアを選択していく上で譲れない軸となる価値観を錨(アンカー)に例え、キャリア・アンカーという概念を提唱しました。
キャリア・アンカーは、失敗や成功など様々な経験を経て形成され、一度形成されると、その後周囲の環境やライフステージの変化があったとしても、生涯にわたりその根幹は揺らぐことなく自分の中に存在し続けるといいます。そのため、自身のキャリア・アンカーを知ることは、自分に合ったキャリアや働き方を選択していくうえでの自己理解にも役立ちます。
キャリア・アンカーには以下のような特徴があります。
1.能力・欲求・価値についての自己イメージ
2.節目などのきっかけがないと、はっきりと自覚されないもの
3.組織、仕事が変わっても「手放したくない」一人一人の根底にある一貫したテーマ
4.アンカーの基礎になるものは働く以前からあるが、実際に働き始めてから10年程経てから明確に、確実なものになって現れる
キャリア・アンカーの8つの分類
キャリア・アンカーは8つに分類されます。一つだけでなく、複数の分類に当てはまると感じる場合もあるかもしれません。その場合は、どの特性を強く感じるか、優先順位を意識して考えます。
① 全般管理コンピタンス
リーダーや管理職としてチームをまとめたり、組織の階段をできるだけ高いところまで上り詰めることに充足感を覚えます。責任のある仕事をしたい、組織を動かしたいといった気持ちが強い傾向にあります。
若いうちは多くの経験を積むために、職種変更を伴う異動を積極的に受け入れ、キャリアアップのための資格取得の努力も惜しみません。誰かの世話や問題解決などが好きな傾向があり、責任を持つことで成長するタイプといわれます。
② 専門・職能別コアコンピタンス
特定の分野の専門家を目指すタイプで、現場で活躍し続けることを好みます。専門性や技術力が高まることに意義と満足感を見いだし、専門家として能力を発揮する高い意欲を持っています。
技術職や研究職といった、知識とスキルを積み上げる職業に向いているといわれます。
自分の能力を存分に発揮できない部署などに異動すると、やりがいを見失ってしまい、仕事に対する満足度が低下してしまう可能性もあります。
③ 保障・安定
社会的・経済的な安定を求めるタイプです。1つの組織で忠誠を尽くし、社会的・経済的な安定を得ることを望みます。大企業や公務員といった安定した組織に長期間所属することを望む傾向にあります。リスクを回避することを優先し、将来が見通せる環境で堅実にキャリアを歩みたいと考えます。また、この特徴から危機管理やリスクマネジメントの分野において力を発揮します。
④ 自立・独立
自分のスタイルや裁量で仕事を進めることを重視するタイプで、組織のルールや規則に縛られることを嫌います。研究職や技術職に多く見られる傾向があり、自分が納得できる方法でマイペースに仕事に取り組みます。集団行動のための規則や手順、作業時間、服装規定などに束縛されることが苦手なタイプです。
裁量が大きい企業や、在宅勤務・フレックスタイムといった柔軟な働き方が合っています。
⑤ 起業家的創造性
新しいものを生み出す起業家や芸術家、発明家に多いといわれます。新製品や新サービスの開発、新規事業の立ち上げ、既存事業の再建などに関心があり、リスクを恐れずクリエイティブな挑戦を続けるでしょう。
刺激的な仕事が好きなので、困難な課題や変化の激しい状況に立ち向かうことに、モチベーションを見いだす傾向があります。
⑥ 奉仕・社会貢献
世の中に貢献したいと考えるタイプで、仕事を通じて世の中を良くしていくことを目指します。人の役に立つことに喜びを感じるため、社会貢献意識が強い分、誠意のない仕事や内部不正を見逃せない傾向があります。
自分の仕事を通じて「何らかの形で世の中を良くしたい」という欲求が強く、社会貢献に価値を感じるタイプです。商品・サービス開発や医療、社会福祉、教育に関する仕事に就く傾向があります。
⑦ 純粋な挑戦
困難に挑戦することやそこから受ける刺激に喜びを感じるタイプです。彼らにとっての成功とは、不可能と思える困難を克服したり、相手に勝つことであり、専門を問わず「挑戦」を人生のテーマにしています。一貫性なく、多様なキャリアを持つことになる人が多いでしょう。誰しもが無理だと思うような厳しい状況下で問題を解決することに喜びを感じる傾向があります。
困難をものともしないため、異動や配置換えにも前向きで、幅広い事業を展開する企業でさまざまなことにチャレンジすることに向いています。
⑧ ワーク・ライフ・バランス
個人としてどうしたいかだけでなく、家族や会社のニーズとの調和を大切にするタイプです。
名前のごとく仕事とプライベート両方の適切なバランスを常に考えています。
プライベートが充実すると仕事へのモチベーションが上がる傾向にあります。
キャリア・アンカーを活用することのメリット
キャリア・アンカーの概念を活用することで、自身のキャリアについて深く考え、適材適所で働くためのヒントを得ることができます。
〇自己分析の質を上げる
自身のキャリアを考える際には、ぶれない軸を持つことが重要です。
自身の根幹となる軸であるキャリア・アンカータイプを把握することで、様々な人生の節目において、自分の望む満足度の高い働き方を選択しやすくなります。
転職しても、以前と同じ不満が出てきたり、スキルを活かすことができず思うように力を発揮できなかったりしてミスマッチが起こってしまうのは、転職して何を実現したいのかという軸を、自分で把握できていなかったことが考えられます。「仕事をする上で譲れないポイント」や「大切だと思ったこと」を振り返ることで、自分の軸を知ることができます。
〇職場での活用
組織運営をしていく上で、異動や昇進は欠かせないものですが、本人が持つ特質によってそれが成功することもあれば、逆に裏目にでる場合もあります。企業や組織が従業員のキャリア・アンカータイプを知ることで、そのようなミスマッチを防ぐことができます。
従業員がその職場で活躍できるポイントを見出すためには「やりたい仕事」にこだわらず、「どのように働きたいか」を考えることが大切です。
職場でも、お互いのキャリア・アンカーを理解しうまく役割分担ができるようになれば、組織運営はスムーズになり、より強固なチームを築くことができるでしょう。
キャリア・アンカーを知るうえでの注意点
キャリア・アンカーは、個人の良し悪しを決めるものではありません。
あくまでも個人の仕事に対する価値観を明確にする、自己分析手法です。向いている仕事内容を表すものではないため、自分がやるべき仕事を探すことは、活用の仕方として適切とはいえません。
キャリア・アンカーにもとづいた仕事や職種は、あくまでも参考程度に考えるとよいでしょう。
また、キャリア・アンカーは過去の経験から形成され、一定年齢以上になると変化しにくくなりますが、30歳前後まではキャリア・アンカーが変わる可能性があります。そのため、一度のキャリア・アンカーの診断結果だけを絶対的な答えとするのではなく、見直す必要があります。
今回は、自分のキャリアの軸を知るためのヒントとしてキャリア・アンカーについて解説しました。
自分自身が心から満足し輝けるキャリアを描くには、仕事をするうえで大切にしている思いや考え方を把握しておく必要があります。自身のキャリアを見つめるために、キャリア・アンカーを活用してみてはいかがでしょうか。
著者:長谷川 大輔
精神科専門医
医療法人社団 平成医会
産業医統括責任者
当コンテンツの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
コラムについてのご質問やご意見は、メールでお寄せください。お電話でのお問い合わせは恐れ入りますがご遠慮ください。