職場の人間関係と生産性の関係
2021.06.21
- メンタルヘルス
ホーソン効果とは
1927年から5年間、ハーバード大学教授 エルトン・メイヨーらが電話機メーカーであるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行なった研究からホーソン実験とよばれています。照明や労働時間、給与条件などの作業環境や労働条件よりも、従業員の士気や職場の人間関係が生産性を向上させると明らかにし、産業心理学,産業社会学の成立の契機ともなりました。また、後のマズローの欲求階層説の提唱にもつながっています。
ホーソン実験は元々このような効果を期待したものではありませんでした。環境条件をかえれば効率的な作業ができるようになるのではないか、そのためにはどのような作業環境にすればいいのかということを調査するための実験であったようです。
最初の実験では照明の明るさを変えてみたところ、薄暗くて手元がみづらい環境でも作業能率がかわらず能率があがりました。一般的に悪条件になれば作業能率はさがりますが、これが日常の業務ではなくハーバード大学による実験ということがポイントだったようです。実験参加者は、「自分たちは特別に選ばれて参加をしている」や「アメリカでも一番の大学に貢献している」という意識がはたらき、悪条件でもモチベーションが向上しました。そして、リーダーの態度と関わり方も生産性向上に関与しました。人は感情によって行動を変容させ、想像をこえるほどの結果をもたらすことが発見できたのです。
具体的な実験内容
ホーソン実験では以下のような4つの実験が実施されました。
照明実験
照明と生産性の関係を観察するための実験です。明るい照明下では生産性が向上するのではないかという仮説をたてましたが、明るさと生産性に相関性はみられませんでした。
実験内容は、照明の明るさをかえながら、常に明るいなかで作業するグループと、回数をおうごとに照明が暗くなるグループとにわけてコイル巻きの作業速度をはかるものでした。
組み立て実験
疲労と能率の関係を調べるための実験です。休憩時間や就業時間を変更し賃金などの労働条件を変更しながら実験しました。この実験では外部要因と生産性にたしかな相関関係は導きだせませんでした。
実験後、実験参加者からは「共通の友人がいることでチーム間の連携が強くなった」や「メンバーが実験の目的を最初から知っていた」ことなどが心理的に影響し生産性向上に関係しているのではないかという声があがったようです。
面談実験
管理のあり方の質のよさが作業能率に影響を与えることを確かめるための実験です。
現場での状況を理解するために2万人をこえる従業員にインタビューが実施されました。結果、従業員の満足度は外的要因ではなく個人の主観的な感情や好みから生じ、従業員の労働意欲が人間関係に左右されるとあきらかにしました。
バンク配線作業実験
バンクの配線作業とは電話交換機製造の工程のひとつです。
この実験では従業員間で集団的にどのような機能をもち形成されるかを解明しました。
現場に小さなグループがあり、それが社会統制機能をはたしインフォーマルな組織の集団として機能していました。集団をマネジメントするリーダーとメンバーの間には防衛と共存の関係にあり、個人間の関係性が生産性の向上とつながっていることがわかりました。
ホーソン効果の仕事への活かし方
ホーソン効果は、私たちの職場でどのように活かすことができるのでしょうか。
ホーソン実験では、人間関係が生産性に影響を与えることがあきらかになりました。
職員同士のコミュニケーションが活発になることで情報提供がスムーズに行われ業務効率もよくなると考えます。コミュニケーションが円滑になることで、自分の仕事だけに注力するのではなく、ほかのメンバーの状況を知ることで、業務負担をサポートしたり業務に役立つスキルや知識をお互いに教えあったりすることが組織としての成長をうながします。
プライベートで職場の同僚に会いなさいとまではいいませんが、ランチを共にしたり、雑談をしてみたりという関わり方は関係性を深めるためにも大切です。職場が業務に関連する情報のやりとりだけになることを想像すると、少し息苦しい気持ちになります。
オフィスであれば社員がくつろげる休憩スペースの設置やオンライン上で雑談ができるスレッドを作成するなど、気軽に会話ができる場をもうけるとよいでしょう。
単にコミュニケーションを作る場を提供すれば職場の職員同士が仲良くなるとはかぎりません。そのときにはチームの上に立つリーダーがメンバー間のコミュニケーションを促進し人間関係を良好に保つ工夫をしなくてはなりません。メンバー間で発生する小さな困りごとにも、相談役としてのリーダーが緩衝材となり円滑な人間関係を保ちます。
ホーソン実験では、分析における論理性の不足や面接調査の客観性への疑問などが呈されたこともありました。しかし、従業員をロボットのように科学的に管理することが生産性を向上させると考えられていた当時は画期的なものでした。人間関係に焦点をあて働く人の感情に配慮する視点は現代でも多くの学びがあるように感じます。
著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長
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