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感情の伝染とメンタルヘルス

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感情は、身近な人から伝染するものだということをご存知ですか。ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情からも大きく影響を受けます。今回は、こうした現象を引き起こす脳の働きと、感情がどのように周りに影響しメンタルヘルスに寄与するかについて解説します。

メンタルヘルスコラム:感情の伝染とメンタルヘルス

「感情が伝染する」皆さんはこのように聞くとどのようなことを思い浮かべるでしょうか。
例えば、友人の結婚式に行って多幸感に包まれることや、小さな子供が笑っているとこちらまで優しい気持ちになれることを、心理学では「情動感染」と呼ばれています。
今回は、感情がどのように周りに影響しメンタルヘルスに寄与するかを考えていきます。
それでは、どのようにして感情は感染するのでしょうか。

キーワードはミラーニューロン

人には、神経細胞の一つで共感細胞と呼ばれるミラーニューロンというものがあります。例えば、映画やドラマに感情移入して悲しい気持ちになって涙を流したときには、ミラーニューロンの働きが関与しているといいます。これは、他者の真似をするよう自分の行動に働きかけているものだと考えられており、他者の考えを理解することにおいても重要なものです。人のあくびがうつるのは共感によるものだといわれています。
カリフォルニア大学の研究者ハワード・フリードマンの論文によると、「不安を言葉や態度で強く表現している人が視界に入ると、自分も同様の経験をする可能性が高く、それにより脳のパフォーマンスが悪影響を受ける」とされています。すなわち、自分の意思に関わらず影響を受けてしまうという特徴もあるのです。
そのため、身近にネガティブな人がいる場合は自分自身もネガティブになってしまう可能性が高まるということがいえます。さらに、ある研究ではストレスを感じている人を目にしただけで、26%の被験者がコルチゾールと呼ばれるストレスホルモンのレベルが高まったそうです。
さらに難点なのが、伝わりやすいのはポジティブな感情よりもネガティブな感情ということであり、ネガティブな感情や不安感はより伝染する力が高いのです。

社内に不平不満を言う人や常にイライラしている人がいるような職場環境では、周りの人たちに悪影響を与えてしまいます。それは、ネガティブな感情の伝染が関与する可能性があるからです。伝染したネガティブな環境はストレスとなり、職場環境の悪化にも繋がりかねません。反対に、社内に一人でもポジティブな人がいれば、その人から良い影響が伝播されることもあります。弊会でも、サンキューカードを社員同士で送ったり、自分が言われて嬉しい言葉をお互いに伝え合うような取り組みを行っており、社内の活性化に役立てています。

メンタルヘルスコラム:ネガティブな感情からの影響を少なくする方法

ネガティブな感情からの影響を少なくする方法

① 情動感染を意識してみる

自身の置かれた状況を客観視することで、自分の感情もコントロールしやすくなるといいます。周りにある感情を排除して、起こっている事実だけを受け止めるようにすれば、感情をコントロールできるだけでなく他人からの情動感染も防げると考えることができます。自分の気持ちを理解することで、周りの感情に流されずにきちんと整理することができるようになるのです。まずは、情動感染の存在を知り意識してみてはいかがでしょうか。

② ポジティブな人の近くにいる

ポジティブな人を周りに集めることでも、ネガティブな感情の伝染を防止することができるといいます。感染症対策には集団免疫効果という言葉があるように、インフルエンザの伝播に大きな役割を果たす小児に予防接種を行えば、ハイリスク者を含む集団全体の感染を抑制できると考えられています。この効果で重要な部分は、免疫を持たない人も感染しにくくなるということであり、情動感染に置き換えると、ポジティブに考えることが難しい人でも、ポジティブな人が近くにいると他の人から負の感情をもらいにくくなる可能性があると考えられます。

③ ネガティブな環境を避ける

テレビやSNSでネガティブな情報を見過ぎてしまうことも、負の感情に引っ張られる要因となります。
そのような情報をなるべく避け、自分にとって有用かつ信頼できる情報を取捨選択できる能力が必要でしょう。また、現代は情報過多であり、街を歩けば様々な情報が目に入ります。それにつきましては、以前のコラム(情報過多とストレスとの関係性)にも掲載しておりますのでご覧ください。

会社や家庭での自分の役割

会社でいつもポジティブな人は、プライベートでもポジティブとは限りません。その時々で、様々な立場の自分を使い分けることもあるかと思います。これまで述べた情動感染が様々な場面で当てはまるとすれば、周りにネガティブな影響を与えたいと心から思う人は少ないのではないでしょうか。なるべくなら、ポジティブに振舞い、周りにも良い影響を与えたいと考えるはずです。それぞれの状況や心の状態から常にポジティブな気持ちでいることは容易なことではありません。このコラムを読んで少しでも、自分自身を振り返るきっかけになれば幸いです。


著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師


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