社会的比較理論とメンタルヘルス
2020.01.20
- メンタルヘルス
他者と自分を比較して、他者の方が劣っていたとき、安心した気持ちになったことはありませんか。
それは、自分が不安を抱えているときや自信を喪失しているときに多く経験することなのかもしれません。社会的比較理論という理論をもとに、自己評価との関係について解説します。
多くの人が経験している社会的比較理論の考え方
人は、普段から誰かと比較しながら生きています。他者と比べることにより、 人は自らの能力や意見を評価していると考えられています。すなわち、現在の自分に満足していなかったり、不安で落ち着かない状況が続くと、その現状から抜け出す努力よりも先に誰かと比較して安心感を得たくなるのです。
アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーは、「社会的比較過程論」を提唱しました。
フェスティンガーによると、人は正確な自己評価を得るために、他者と比較をするといいます。また、人間が適応した生活を送るには、自分の置かれた状況や環境をよく知っていることが必要です。
例えば、買い物をするときに、商品に対する評価基準になるものが無い場合には、他者の考えをもとにして評価をする傾向にあるのです。売れ筋の人気商品や芸能人が使用していることで、その商品の評価は高くなり購買意欲が上がります。
また、職場で同僚と比べて優越感を得たり、年収や学歴、容姿など他者と比較して感じた優越感や劣等感は、社会的比較理論が関係しています。
それでは、どのように対象を選定しているのか、そして選定した対象によってどのような心理状態になっているのかを考えていくことにします。
人は、比較対象に対して自分が自信のある場合には、自分より優れた人物と比較する傾向が高くなることを、上方比較といいます。逆に、自分に自信がない対象項目であると自分より劣った人物と比較して自信を維持する傾向が高くなることを、下方比較といいます。
「下方比較」がもたらす心理状態
下方比較とは、自分より不幸であったり、優れていない人物や集団と自分を比較することです。
これにより、自分より優れていない人を見て、安心することができるのです。自信を喪失していたり、落ち込んでいる時に、人は下方比較をしがちです。しかし、そのような考え方を続けてしまうことは危険です。なぜなら、自分が能力的に劣っている状態を維持することから、自分の成長を促すことをしなくなることがあるからです。また、ネガティブ思考にも陥ってしまう可能性もあります。
「上方比較」でモチベーションアップ
社会的比較理論の上方比較とは、自分より実力や実績を上げている人たちと比較することです。
自分より優れた人物と比較することで、モチベーションを高め、達成への思いがより一層強くなります。例えば、自分よりも優れた人物を見て、「あの人のようになりたい」という感情になるのが上方比較です。このような考え方を持つことができる人は、自分を成長させ、多くの成果を成し遂げる可能性が高くなります。
望ましい他者との比較
社会的比較理論の下方比較にもメリットはあります。下方比較は、自身が追い込まれており、精神的にも病んでしまいそうな状況では有効だといえます。また、時間や労力をあまり必要としないため、自分より下の立場の人間を見つけて、気持ちを安定させることができます。しかし、その考え方が癖になってしまうと、いつまでも同じ状況にいてしまうことになるので注意しましょう。
上方比較では、優れた人と比較することで、向上心やモチベーションを保つことができますが、比較対象が自分よりも立場が高すぎたり、自分が成果を出せない時には、自信喪失に繋がる場合もあります。
望ましい他者との比較とは、自分と同等の立場の人との比較が理想であるといえます。
仕事やプライベートでそれぞれ、自分でも手に届きそうな現実的な目標とできる人を見つけておくと良いのかもしれません。
脳と他者比較の関連について
人はなぜ他者比較をするのでしょうか。人間の脳は非常に省エネモードで動いています。それは、人間が生命の維持をするために沢山の情報を処理しており、その情報が多すぎると脳が思考停止状態になってしまうのです。そのため、多数の情報を得て自分で考えて結論を出すよりも他者との比較をした方が効率的なのです。
脳は、突然の脅威があった場合に思考停止状態を避ける為に、常に余裕のある状態を保つ働きをするといわれています。
社会的比較理論は、周りの環境も大切です。自分が成長できるような環境で過ごせることがベストですが、環境を変えることは、個人の努力では限界があることも事実です。極端に上方比較や下方比較に偏りすぎると、自分を苦しめることになります。人と比較してしまうということは、人間の本能でもありますので、自分自身に自信を持つことで、過度な他者比較を防げます。日常の中で自分と向き合う時間を作ってみることで新たな自己や自分らしさを再認識できるかもしれません。
著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師
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