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メンタルヘルスの向上に繋がるハラスメント対策

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業務効率の低下や企業イメージ、人材流出などのリスクをさけるためにもハラスメント対策は重要です。また、ハラスメントとメンタルヘルスの関係性は深く、令和2年6月から改正労働施策総合推進法が施行され、 労災認定基準の「業務による心理的負荷評価表」にパワーハラスメントが明示されました。今回はハラスメントの定義やその対策について解説します。

メンタルヘルスコラム:メンタルヘルスの向上に繋がるハラスメント対策

ハラスメント法制化の背景と概要

パワハラ防止法とは、正式名称を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)といいます。この法律により、大企業は 2020年6月から、中小企業は 2022年4月から職場におけるハラスメント対策が義務化されました。
企業は相談窓口の設置やハラスメントが起こった際の再発防止策を講じる必要がでてきました。改善に従わない場合は、厚生労働省が企業名を公表するケースもあります。
人によってハラスメントの捉え方は様々なことが多く、何をしたら該当するのか従業員一人ひとりが定義やその概念を知る必要があるのではないでしょうか。

パワーハラスメントという言葉は「power」と「harassment」が語源となっている和製英語です。1993年にはスウェーデンが職場におけるいじめの規制や予防について雇用環境規則を制定して定義しました。欧米諸国でパワーハラスメントが法制化されたことで、その概念が浸透していきました。その後、1997年にはイギリスで「ハラスメントからの保護法」、2002年にはベルギーの「職場における暴力、モラルハラスメント及びセクシャルハラスメントからの保護に関する法律」が制定され、世界的にパワーハラスメントに対する関心が高まりました。

ハラスメントの定義

欧米諸国から浸透したパワーハラスメントですが、日本ではどのように定義されているのでしょうか。
厚生労働省では、パワーハラスメントを以下のように定義しています。
職場におけるパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。ここでのポイントは「職場内での優位性」と「業務の適切な範囲」です。

職場内での優位性
職場における役職や地位、ポジションによる上下関係、人間関係や専門知識により優位性などを指しています。この優位性は必ずしも役職や地位の上下関係だけでなく、部下であっても人間関係や知識の優位性を背景に嫌がらせやいじめをおこなうことも指しています。
業務の適切な範囲
パワーハラスメントを判断する基準になるものです。部下に対する指示や指導が、業務の適切な範囲であればパワーハラスメントにはあたりません。担当する業務ごとに働き方が異なる職場において、どこまでが適切な範囲でどこまでが違うのかを規定するのは難しく、ハラスメントの判断は法務の専門家と行政/司法機関などが判例などを参考にしておこなうことになります。

パワーハラスメントの6つの種類

パワーハラスメントには、どのような種類があるのでしょうか。厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」において定義されているパワーハラスメントの6つの行為類型をお示しします。これらの行為が業務上必要な注意や指示を逸脱していると考えられる場合は、意図せずともパワーハラスメントと認定される可能性が高いといえます。

1. 身体的な攻撃:暴行や傷害
具体的なケースとして以下のようなものがあります。
・ 指導に熱が入り、手が出てしまった(頭を小突く、肩をたたく、胸倉を掴むなど)。

〈適切な範囲と考えられる例〉
・ 故意的ではなく誤ってぶつかってしまった 。
・ 業務に関係のない(プライベートでの)同僚との喧嘩

2. 精神的な攻撃: 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
具体的なケースとして以下のようなものがあります。
・ 「馬鹿」「ふざけるな」「役立たず」「給料泥棒」「死ね」等暴言を吐く。
・ 大勢の前で叱責する、大勢を宛先に入れたメールで暴言を吐く。
・ 十分な指導をせず、放置する。

〈適切な範囲と考えられる例〉
遅刻など社会人としての基本的ルールを守らず注意を繰り返しても改善されないため数回強く注意する。企業にとって重大となる問題行動を起こしたため、数回強く注意する。

3. 人間関係からの切り離し:隔離・仲間はずし・無視
具体的なケースとして以下のようなものがあります。
・ ある社員のみを意図的に会議や打ち合わせから外す。
・ 仕事を割り振らず、プロジェクトから疎外する。

〈適切な範囲と考えられる例〉
新人教育や職務復帰を目的とし短期間だけ集中して別室で研修や説明などをおこなう。

4. 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
具体的なケースとして以下のようなものがあります。
・ 英語が苦手な社員を海外業務に就かせる。
・ 十分な指導を行わないまま、過去に経験のない業務に就かせる。

〈適切な範囲と考えられる例〉
育成を目的とし現状行っている業務よりも若干レベルが高い業務を任せる。
繁忙期など必要性を伴い通常業務よりも多い業務を任せる。
5. 過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い
仕事を命じることや仕事を与えないこと

具体的なケースとして以下のようなものがあります。
・ 業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる。

〈適切な範囲と考えられる例〉
対応できるレベルや能力を考えて業務内容を変更したり、業務量を軽減したりする。
経営上の理由などやむを得ない理由により、一時的に簡単な業務を任せる。

6. 個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
具体的なケースとして以下のようなものがあります。
・ パートナーや配偶者との関係など、プライベートを詮索する。
・ しつこく飲み会に誘う、職場の懇親会を欠席するに当たり理由を言うことを強要する。

〈適切な範囲と考えられる例〉
業務上知る必要があって家族状況などをヒアリングする。
業務上必要な個人情報を従業員の了承を得たうえで人事部門に共有する。

ハラスメント対策への取り組み

職場でのハラスメントに対する組織的な対策は、まだまだ不十分な企業が多いといえます。まずは、ハラスメントを未然に防止することが重要であり、実際に起こってしまった場合に早期に対応できる体制を整えておくことがハラスメント対策の基本です。組織的なハラスメント対策について厚生労働省が発行した「パワーハラスメント対策導入マニュアル」をもとに実施すべき7つの取り組みをご紹介します。
メンタルヘルスコラム:ハラスメント対策の予防のための取り組み

予防のための取り組み
1.トップのメッセージ
組織としてハラスメント対策の方針を明確にし、企業のトップから全職員に対して、ハラスメント対策は取り組むべき重要課題であることを発信しましょう。

2.ルールを決める
労使一体で取り組みを進めるために、労使協定などでルールを明確化、罰則規定などを具体化して、ハラスメント対策マニュアルなどを作成しましょう。

3.実態を把握する
職場での実態を把握するために、早い段階でアンケート調査を実施してハラスメント防止対策を効果的にすすめられるようにしましょう。

4.教育する
教育のための研修の実施は予防策のなかでも 効果的です。職員全員が受講できるように定期的に実施し新卒・中途採用者に対しても入職時の研修に取り入れるなどしましょう。

5.周知する
組織の方針やルール、相談窓口などについてポスターを掲示したり、パソコン上で職員がすぐに見られるようにしたりするなど周知を実施しましょう。

解決のための取り組み
6.相談や解決の場を提供する
ハラスメントに関する相談窓口を設置し、相談対応者は守秘義務を負うことプライバシーを保護することを明確にしましょう。施設内での設置が難しい場合は、外部の相談窓口の利用も検討してみてください。

7.再発防止のための取り組み
相談者への迅速な対処やハラスメントの早期解決が再発防止につながります。一時的な対応にならないために解決後も対応策の見直しや改善を継続的に行いましょう。

皆さまの会社は、ハラスメント対策はしっかりと実施できているでしょうか。相談窓口の設置については実施してる企業も多いようです。職場におけるハラスメントの実態把握のためには、社内アンケートの活用も有効です。平成医会でも企業様向けにハラスメント相談窓口の設置やハラスメント研修をおこなっています。対策はしたいけれども具体的な方法がわからないなど、お困りの際にはお気軽にご相談ください。社員一人一人が心身ともに健康で生き生きと働ける職場になるためのお手伝いをさせていただきます。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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