孤独が及ぼす心理的な影響
2020.09.07
- メンタルヘルス
孤独の影響は喫煙やアルコール摂取に匹敵する
アメリカでは公衆衛生上の課題として、孤独や社会的孤立が重視されており、孤独が高齢者の健康を脅かすリスクであることを示した研究が多く報告されています。
ブリガムヤング大学のジュリアン・ホルト・ランスタッド教授らはPerspectives on Psychological Science(心理科学誌/2015.3.15)の中で、死や生存といった言葉と社会的孤立、孤独、一人暮らしといった言葉をキーワードにその関係性を明らかにしました。
分析の結果、死亡リスクが「社会的孤立」では29%、「孤独感」によるものでは26%、「一人暮らし」では32%高まることが示されました。興味深い点は社会的孤立状態は、その主観に関わらず孤独感と同じく有害であるということです。
また、強い社会的つながりを持っている人は、弱いつながりしか持たない人に比べて生存率が50%高く、社会的孤立の死亡リスクは喫煙やアルコールの摂取に匹敵し、運動不足や肥満などの危険因子よりも高いことを示しています。
さらに、技術革新が孤独のリスクを高めていると指摘する人もいます。ヒューストン大学の研究者らはFacebookを長時間利用している人は、過度に他人と自分を比較することで自分に対する主観的評価が下がり、抑うつを感じているという報告をだしました。
孤独な状態にある人がそうでなくなることは難しいという指摘もあります。仕事上の付き合いや単に多くの人数と接触すれば良いという訳ではなく、家族や友人、地域のコミュニティなど意味のある親密な人間関係を築き、社会と様々な関わりを持つことが重要なようです。
孤独を取り巻く国際情勢
英国では孤独問題担当大臣が任命されたというニュースが話題になりました。その背景には、英国では国民の7人に1人、65歳以上の10人に3人が孤独を感じており、それによる経済的損失は年間320億ポンド(約4.9兆円)といわれているようです。このことから孤独が身体的にも精神的にも健康を損なわせているということが分かります。孤独は個人の問題ではなく、国を挙げて取り組むべき課題だと政府は決断したようです。エビデンスの構築や国民への啓発、分野横断的な孤独対策などが計画され、「社会的処方」の全国展開、移動サービスの改善といった具体的対策が始まっています。
日本の現状
厚労省によれば、65歳以上の高齢者のうち一人暮らしをしている割合は2010年には男性11.0%、女性20.1%に達しています。75歳以上でも、それぞれ10.7%、22.9%を超えています。
戦後、核家族型に家族構成が大きく変化したものに平均寿命が延びたことも加わり、一人暮らしの高齢者が増加しました。2008年の報告書では、孤立のきっかけとして、大切な人との離別や定年退職、リストラ、病気、引っ越し等による心身のストレスがもたらす「寂しさ」を挙げています。
高齢者だけではなく、独居世帯は全体の3分の1を超え、未婚率(50歳時未婚割合)は男性27%、女性18%と急増しています。
日本はこれまで地縁・血縁・社縁が強く、自発的に行動することもなく自然発生的につながりが持てていました。そのため、その縁が弱まると一気に孤立が進んでくるのです。今の日本には、英国のようにつながりを戦略的に生み出すことが求められているのかもしれません。
孤立から脱却できるかもしれないヒントをいくつかご紹介します。
① 興味がある集まりに参加してみる
新たな環境に飛び込むことは勇気のいることですが、自分の興味のあることであれば会話も弾みますし、参加することの敷居は低くなるのではないでしょうか。
② 長い間疎遠になっている友人に連絡を取る
お互いに大切に思っているのに何年も会っていない友人はいませんか。そうした友人たちに、連絡をしてみるとつながりを再確認できるかもしれません。自分のことを理解してくれる人がいるということを実感できることが重要です。
③ ボランティア活動に参加する
ボランティア活動を行うことでも、コミュニティに所属することはできます。仕事であれば利害関係が発生しますが、ボランティア活動には基本的にはありません。誰かのために無償で力になろうと考えている人たちの中に仲間や友人を見つけることができるかもしません。
本来人間は社会的な動物であり、孤独になることを避ける生き物です。原始人の時代から外敵と戦いながら生きていくためには、他者との結びつきが必要でした。そのため孤独に対して強いストレスを示すのだと考えます。また、孤独な人ほど炎症を起こす遺伝子が活発になり、炎症を抑える遺伝子の動きが抑制されるため免疫が弱くなり、感染症などへの抵抗力も低下するともいわれています。これが、孤独がさまざまな疾病を引き起こしやすくする原因の一つなのかもしれません。
日々の生活に追われ仕事中心の生活になっている人は、若い頃から活動的な余暇を過ごすことを意識することで豊かな人間関係と人とのつながりが獲得され、将来の健康に繋がるのではないでしょうか。
著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長
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