うつ病の治療について
2021.01.18
- メンタルヘルス
治療の三本柱
うつ病の治療には「休養」、「薬物療法」、「精神療法」の3つがポイントとなります。こころの病気の治療は特別なものと考えがちですが、身体疾患と基本的に似ています。それでは順にみていきましょう。
① 休養
うつ病の治療はこころと体を十分に休養させることがもっとも重要だといわれています。
脳のエネルギーが欠乏する状態から、使いすぎた脳をしっかりと休ませることが治療の基本です。
とはいえ、仕事に奮闘していたり、日々の家事や育児に追われている人の中には休むことに抵抗を感じる人が多くいます。
フル回転で毎日を送ってきた患者さんにブレーキをかけることは自分に適したあらたなペースをつかむためには必要です。
休養するときの注意点ですが、一定の睡眠時間を保ち、食事はなるべく決まった時間にとるなど、生活リズムが乱れないように心がけることが大切です。状態が回復してくれば、散歩などの軽運動を始めてみるのもよいでしょう。
うつ病の症状が重い場合や軽症であっても自宅療養をしていてもその環境がゆっくりとした休養がとれない場合には一時的に入院することがよいこともあります。
② 薬物療法
精神的な症状により思うように休養が取れないときには、脳の機能的不調を改善し症状を軽減するための薬物療法が必要になります。薬物療法では、副作用を抑えるためにも最初は少量の抗うつ薬の服用を開始し、徐々に適切な服用量に調整していくのが一般的です。抗うつ薬の効果があらわれるまでには、服用開始から2週間ほどかかるといわれています。
抗うつ薬の役割は、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が有効に機能するようサポートすることです。精神薬に怖いイメージを持っている方もいるかもしれませんが、もともと自分に備わっている脳の機能の働きを取り戻すと考えるとそのイメージは少し変わってくるのではないでしょうか。
うつ病患者さんは不眠や不安感、恐怖心などで苦しんでいる人もいます。そのため睡眠導入剤や抗不安薬などが併用されることは珍しくありません。これらの薬と抗うつ薬の違いは即効性があり服用後から効果が現れることです。
また、薬物療法で直面するのが、副作用です。副作用で多いのは、だるさや眠気などです。便秘や吐き気、下痢などの消化器症状、口の渇き、めまい、頭痛などもあります。これらの副作用は、飲み始めて1週間以内にあらわれるといわれています。副作用があまりにつらいときは医師に相談してみるとよいでしょう。
しかし、抗うつ薬の中でも効果はあるが副作用も強かった三環系と呼ばれる薬を使用していた時代から、現在ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤)と呼ばれる抗うつ薬の開発により、治療の選択肢が増え薬物治療を続けやすくなったといわれています。
抗うつ薬の量のコントロールはとても難しく、それらは医師の判断により行われるものです。万が一、患者さんやご家族の判断で薬をやめてしまうと、不眠、発汗、ふるえ、混乱、悪夢、めまいなどの離脱症状が出ることも少なくありません。自己判断で減薬や服薬を中止することで再発も起こしやすく、うつ病がさらに悪くなるという報告もありますので、必ず医師に相談するようにしましょう。
③ 精神療法
精神療法は主に再発予防が中心となります。同じような状況の中で症状が再燃、再発しないように、患者さんの行動パターンや思考パターンを見直していきます。
精神療法の中には「認知行動療法」、「森田療法」、「内観療法」などさまざまな治療法がありますが、重要なことは心の専門家が一方的に行うものではなく、患者さんが専門家とともに主体的に考えていくという自主性が必要です。
また、うつ病の症状は多彩であることが多く、心だけではなく体の症状があらわれる場合があります。そのため大切になるのが、心と体の両方に目を向けることといえます。
また、弊会では復職支援プログラム(リワーク)も実施しており、再休職率も低く効果をあげています。
うつ病の予後
うつ病の回復には一般的に時間がかかるものとされています。症状が強く出る急性期は3ヵ月程度とされています。うつ病の程度や患者さんの置かれている状況によっても異なりますが、回復のプロセスがはっきりと見えるものではないため、焦らず治療することは大切です。
治っていく経過としては、良くなったり悪くなったりという小さな波をもちながら、階段をゆっくりと1段ずつ上るように改善していきます。うつ病はご家族のサポートが治療に重要な役割を果たす疾患です。
皆さまの周りには、様子がいつもと違ったり、表情が暗いなど気になる人はいませんか。うつ病も早期発見早期治療が大事な疾患です。そのような人がいたときには、ぜひ手をさしのべてあげてください。
著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長
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