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ニーズの高まる治療と仕事の両立支援

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みなさまの身近に治療や療養をしながら仕事をされている方はいませんか。 「治療と職業生活の両立等支援対策事業」(平成25年度厚生労働省委託事業)における企業を対象に実施したアンケート調査によると、疾病を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%でした。また、「平成22年国民生活基礎調査」に基づく推計では、仕事を持ちながら、がんで通院している人は、32.5万人に上っています。 今や治療や療養をしながら仕事をする状況は、いつ誰にでも起こり得ることといえます。 今回は治療と仕事の両立支援について解説します。

メンタルヘルスコラム:ニーズの高まる治療と仕事の両立支援

両立支援のニーズが高まっている背景

① 高年齢労働者の増加

労働者の高年齢化によって、疾患を抱える年齢での労働者が増加していることが挙げられます。
以前は60歳を定年とする企業が多かったですが、労働人口の減少に伴い、定年齢の延長・再雇用等が促進され、この10年で60歳以上の労働者は急速に増えています。

② がん医療をめぐる変化

近年は、生涯のうちに日本人の約2人に1人ががんに罹患すると推計されており、がんは私たちにとって稀ではない病気となっています。国立がん研究センターの推計では、年間約85万人が新たにがんと診断されており、このうち約3割が就労世代(20~64歳)です。特に女性の場合は、子宮頸がんや乳がんを中心に、20代では男性の1.6倍、30代では男性の約2.3倍もがんになりやすいといわれています。
がん医療は著しく進歩をし、多くのがんでは5年生存率の向上を認めています。健診や人間ドックの普及でがんが早期に発見されるケースも増え、がんと診断された人の約6割は、5年後も生存している状況にあるのです。また、以前は入院治療が主体でしたが、現在は通院治療も増えています。しかし、治療の長期化の中でメンタル不調に陥るケースも少なくありません。

また、労働安全衛生法に基づく一般健康診断において、脳・心臓疾患につながるリスクのある血圧や血中脂質などにおける有所見率は、年々増加を続けており、令和元年は56%に上るなど、疾病のリスクを抱える労働者も増加傾向にあります。このことは、私たちの生活習慣の変化なども大きく影響していると考えられ、今後「がん」「心疾患」「脳卒中」の3大疾病を発病するリスクは一層高まっていくと予想されます。

平成28年に厚生労働省がガイドラインを公表

今後、多くの場面で治療と仕事の両立支援は不可欠と考えられるものの、治療と仕事の両立支援の取り組み状況は事業場によって様々であり、支援方法や産業保健スタッフ・医療機関との連携について悩む事業場の担当者も少なくありません。そのような現状を受け、平成28年2月23日、厚生労働省から「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が公表されました。
治療が必要な疾病を抱える労働者が、業務によって疾病を増悪させることなどがないよう、事業場において適切な就業上の措置を行いつつ、治療に対する配慮が行われるようにするため、関係者の役割、事業場における環境整備、個別の労働者への支援の進め方を含めた、事業場における取り組みをまとめたものです。このガイドラインに沿って、今後事業場での取り組みが求められることが想定されます。

メンタルヘルスコラム:なぜ両立支援が必要なのか

なぜ両立支援が必要なのか

「がん」と診断された場合、治療に専念しなくてはと思ったり、あるいは、残された人生を有意義に過ごしたい、と考えてすぐに仕事を辞める人がいます。しかし、以前よりも治るがんが多くなってきていたり、治療や療養が長期間に及ぶケースもあり、疾患やその人の病状によって経過は様々です。後になって、治療に想定以上の費用がかかったり、思ったよりも早く回復して十分仕事ができるようになり、あの時仕事を辞めなければよかった、と後悔する人もいるのです。
その一方で、糖尿病などの慢性疾患のケースでは、治療と仕事の両立がうまくいかずに、通院を中断することになったり、仕事を辞める等、どちらか一方になってしまうケースも少なくありません。
その人の状況をしっかりと見極め、必要な判断ができるよう、よく話し合いサポートしていく必要があります。

両立支援とは何か

治療と仕事の両立支援の検討は、両立支援を必要とする労働者からの申し出によって始まります。
医療機関の受診により、自らが疾病にかかっていることを把握し、主治医等の助言により治療と仕事の両立支援が必要と判断した労働者が、両立支援に関する事業場内ルール等に基づいて、支援に必要な情報を収集して事業者に提出する必要があります。
業務によって疾病を悪化させることなどがないよう、事業場が適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行なう際は、主治医の意見を踏まえ、労働者本人、産業保健スタッフ、人事労務担当者が十分話し合うことが重要です。

疾患を抱える労働者への関わり

人事労務担当者は様々な疾患を持ちながら仕事をしていく労働者がいるということを認識しておくが最も重要です。重篤なケースや医学的な知識が必要となる場面も出てくるため、企業担当者は産業医や保健師などの産業保健スタッフ、支援センターなどの支援を受けて進めていけることを知っておきましょう。
また、疾患の重症度(緊急度や重篤度)と、本人の受け止め方にズレが生じている場合があります。例えば、重症ですぐに入院治療が必要な状態であっても、仕事を優先してしまったり、逆に軽症なケースでも仕事を辞めると決めたりすることもあります。特に、病状が重症であったり、進行が速い場合は、診断や治療が最優先され、仕事との両立に十分な検討が必要となりますが、人事労務担当者は労働者が不安な要因についても聞き取り、労働者の心に寄り添った対応が求められます。

企業内での日頃からの取り組み

事業場では、日頃から治療と仕事の両立支援を行うための環境整備を進めていくことが求められます。
「誰しも病気になるリスクはある」という意識啓発をし、「病気=働けない=辞めなければ」という認識ではなく、状況に応じて治療と仕事の両立という選択肢があるという周知が大切です。
また、事業場内のルールを衛生委員会などで協議したり、相談窓口の明確化も必要となります。

治療と仕事のバランスのとり方は、医療的側面と社会的側面、本人の価値観によって様々であるため、正しい選択は一つとは限りません。企業の人事労務担当者や産業保健スタッフは、本人の希望を把握すると同時に、安全配慮義務、個人情報の保護に留意しながら対応をするようにしましょう。
労働者や事業場が利用できる支援制度及び支援機関は増えてきているため、社会資源を最大限活用し、両立支援ができると良いと思います。


著者:金子 綾香
保健師
医療法人社団 平成医会


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