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相談しやすい職場づくりの工夫

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従業員が安心し安全に仕事をするために、職場の管理監督者は日頃から事業所内に目を配り、必要に応じてケアすることが大切です。例えば、職場環境等の把握と改善、労働者からの相談対応などがあげられます。 今回は相談しやすい職場づくりについて解説します。
メンタルヘルスコラム:相談しやすい職場づくりの工夫

職場環境が原因で起きたトラブル

職場環境の把握と改善に関連して、会社が従業員から慰謝料を求められ会社側の法的責任(債務不履行)が裁判で認められたケースをご紹介します。

あるソフトウェア会社の従業員Xさんは、同僚のAさんと二人でサポート業務を担当していました。
Aさんは、本来の業務を優先せず独自のルールで必要性の低い作業を優先するなどの問題があり、社内外から苦情が寄せられていました。
Xさんは、上司のY1さんに「Aさんと一緒に仕事をするのは無理です」「問題がありすぎるので異動させてほしい」と何回も相談しましたが、取り合ってもらえませんでした。

ある日、Aさんの勝手な行動が目に余ったXさんは、CCに社内スタッフを入れ、注意喚起のメールを出しました。すると、Aさんは、「Xさんにパワハラを受けている」と会社に申し出たのです。
のちに事実調査の結果、パワハラの事実はないと認定されましたが、Xさんは「これ以上Aさんと一緒に仕事をするのは無理だ」と改めて感じ、Xさんは、上司Y1さんと人事部長Y2さんにもう一度、職場環境を考えてもらえるよう要望しました。しかし、「あなたはAさんが嫌いなだけでしょ」と言われ、取り合ってくれませんでした。その後、精神的に追い込まれたXさんは会社を退職しました。

裁判の判旨は以下のとおりです。

1.パワハラの事実はなかった。
2.二人体制部署で、もう一人の同僚からパワハラで訴えられるという当事案は、 Xに相当強い心理的負荷を与えた。 
3.会社はXとAを業務上完全に分離する、XとAとの業務上の関わりを極力少なくするなど、トラブルの再発を防止すべきであった。

上記を基に健康配慮義務(安全配慮義務)に違反した債務不履行責任(民法415条)等があるとして、慰謝料50万円の支払いを命じられました。

このケースからも分かるように、会社は、従業員間のトラブルを「当事者同士の問題」とするのではなく、「会社自身の問題」と捉え、真摯に向き合うことが必要だったのです。

社内でのトラブルは個人の問題でなく、会社の問題として考えることが大切です。

メンタルヘルスコラム:相談しやすい職場環境づくりのために

相談しやすい職場環境づくりのために

厚労省の第13次労働災害防止計画(2018年度~2022年度)では、「仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある」労働者の割合を90%以上とする目標を立てています。

2020年6月に施行された「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)では労働者の相談に対応する窓口を設け、労働者に周知することが義務付けられています。しかし、身体疾患と違って、ストレスや精神疾患に関することについて、すぐに専門家に相談するケースは少ない傾向があります。

実際に、令和2年労働安全衛生調査によると、このような結果が出ています。

◆ストレスを相談できる相手

家族・友人      78.5%
上司・同僚     73.8%
産業医        9.6%
保健師又は看護師   6.2%

◆実際に相談した相手

家族・友人       73.5%
上司・同僚      67.6%
産業医        3.2%
保健師又は看護師    2.8%

◆職場外資源を含め、職場で相談できる人がいる

全年代        90.8%  (平成30年労働安全衛生調査 92.8%)

労働者において、相談ができない人、「助けて」が言えない人の心理はどのようなものがあるでしょうか。

・相談相手となるはずの上司・同僚がストレスの原因だ
・相談機関が人目に付く、なじみが薄い
・相談する自分自身が受け入れられない
・どんな問題を相談できるのかわからない
・否定的評価やさらに被害を受けるのではと不安がある

ご自分を振り返って、身に覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
どのようにしたら、相談しやすい職場環境作りが進められるのでしょうか。
例えば、このようなことがあげられます。

(1)相談場所のレイアウト変更など、相談しやすい環境を整える
→何でも相談ルーム、入り口からさっと入れる部屋を設置したり、
 定期的に面談を行うことを慣例にすることができます。

(2)啓発や情報提供を複数の広報媒体、研修等で行う
→受講したことがある研修の講師が相談対応者なら、
 労働者も「見たことがある」と親しみがわくかもしれません。

(3)個人情報は守られること、不利益取扱いがなされないことを周知する
→ルール化されていると安心です。

(4)どんな場合に利用してもらいたいかを具体的に周知する
→実際に起こったケースをどう解決したか、を研修でシェアすることも効果的です。

(5)関係者との協働体制を作る
→会社がカウンセラーや産業医に相談できる体制を作りましょう。

これを機会に相談しやすい職場環境づくりを考えてみてはいかがでしょうか。
平成医会では、相談しやすいしくみとしてメール相談サービスの「ハラスメントメールホットライン」をご用意しております。また、オプション契約で「電話カウンセリング」「オンラインカウンセリング」などもご提供していますので、職場環境にご不安がある企業様は、お気軽に平成医会へご相談ください。


著者:塩入 裕亮
精神保健福祉士
医療法人社団 平成医会 「平成かぐらクリニック」 リワーク専任講師


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