高年齢労働者の就業支援のポイント
2022.09.26
- コラム
高年齢労働者増加の背景
労働者に占める60歳以上の高年齢労働者の割合は年々増加し、2018年には17.2%となっており、60歳以上の雇用者数は過去10年間で1.5倍に増加しました。特に商業や保健衛生業をはじめとする第三次産業で増加しています。
高年齢労働者の増加の背景として、大きく2つの理由が挙げられます。
1つめは、少子高齢化、2つ目は平均寿命/健康寿命の延長です。
少子高齢化の主な原因は出生数の低下です。高齢者が増え続けているという認識をお持ちの人も多いと思いますが、65歳以上の高齢者人口は、2040年にピークを迎え、その後は減少すると推計されています。また、「65~74歳」に限ると、2020年以降は減り始めています。
そして、2つ目に挙げたように日本の平均寿命は1950年からの70年間で20才以上も延びています。また、単に平均寿命が延びただけではなく、身体機能も上がり、元気な高齢者が増えたというのも高年齢労働者が増えた大きな理由です。
2013年に内閣府が実施した「高齢期に向けた「備え」に関する意識調査」では、60歳を過ぎても働きたいと回答した人が全体の約80%、65歳を過ぎても働きたいと回答した人が約半数を占めており、まだまだ働きたいと思う人が増えていることを示しています。
高年齢者雇用のメリット
高年齢者の雇用にあたって、以下のようなメリットが挙げられます。
・経験の豊富さや信頼の厚さなどによる業務効率の向上
・モチベーションの高い高年齢労働者の就業による職場の活性化
・ダイバーシティ(多様性)の実現
・労働力不足の解消
・助成金や税制上の優遇
冒頭でお伝えした高年齢者雇用安定法は、少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。
高年齢者の社会での活躍に伴い、厚生労働省では、2020年3月に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を策定しました。これは、高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境の実現に向け、事業者や労働者に取組が求められる事項を取りまとめたものです。
なぜこのようなガイドラインが必要となってきたのかというと、高年齢労働者が増加したことによる課題が見えてきたからです。
ここからは、高年齢者雇用上の課題についてみていきます。
高年齢者雇用における課題
1. 労働災害の増加
労働災害による死傷者数では60歳以上の労働者が占める割合は26%(2018年)で増加傾向にあります。労働災害発生率は、若年層に比べ高年齢層で相対的に高くなっています。特に、転倒災害、墜落・転落災害の発生率が若年層に比べ高く、女性で顕著です。
高齢者は加齢により身体機能が低下することで、若年層に比べ労働災害の発生率が高く、休業した場合にも長期化しやすいことが分かっています。 労働災害を引き起こさず、高齢者でも安全に働き続けられるように、事業者には職場環境の改善を図ること、体力・身体能力の把握をすることが求められます。
2. 健康管理
加齢に伴い生活習慣病や悪性疾患が増える世代となるため、高年齢労働者が疾患を有する可能性は高まっていきます。
職場における定期健康診断の有所見率は年々増加しており、2018年は56%でした。定期健康診断の受診者のうち所見ありと通知された者の割合は、20歳代の19%から60歳以上では57%と、年齢とともに顕著に増加がみられます。
高齢者の健康状態は個人差も大きいため、個々の状態に合わせて就業措置を考えることも重要です。
3.心理社会的な問題
高年齢労働者にとっては、自身の健康問題だけでなく、家族(両親や配偶者)の介護も身近になり、死別による精神的なダメージを受けることもあります。
また、60歳以上は再雇用という就業形態となることが多く、報酬減少や役職喪失によるモチベーション低下という問題も起こることがあります。
高年齢労働者自身は、体力維持や生活習慣の改善の必要性を理解し、努力することが必要になってきます。身体機能の低下によるリスクを自覚し、自身の状態で無理のない業務であるかを慎重に考えなければなりません。
今回は高年齢労働者の雇用について解説しました。
みなさまの企業でも思いあたるようなことはないでしょうか。
自身が高年齢労働者として働くことになった時に、安全安心で充実した時間を過ごせるように職場環境を整えていけると良いと思います。
著者:長谷川 大輔
精神科専門医
医療法人社団 平成医会
産業医統括責任者
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