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アドバンス・ケア・プランニングと尊厳

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皆さんは自分の死と向き合ったことがあるでしょうか。健康で若い人ほど自分の死について向き合う時間が少ないはずです。厚生労働省は、人生の最終段階に受ける医療やケアを本人や家族、医療チームがくり返し話し合うことをアドバンス・ケア・プランニング(以下ACP)と定め、その重要性を示しています。今回は、ACPについて解説します。

ACPについて

ACPとは、もしもの時のためにどのような医療やケアを希望するか、それを受けるために大切にしていることや望んでいること、その具体的な内容を家族や医療従事者など周囲の信頼する人たちと話し合うことです。本人が望めば、友人等も含むことができます。話し合いの結果は記述し、定期的な見直しやケアにかかわる人々の間で共有されることが望ましいとされています。
ACPの話し合いでは、本人の意向を重視し、目標や価値観、病状や予後の理解、治療や療養に関する意向など、その提供体制を選定します。人生の最終段階の医療やケアについて、意思決定能力が低下する前に、医療・ケアチームや家族と繰り返し話し合うプロセスを重視します。
平成30年に厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を発表し、ACPの重要性が示されました。ACPの愛称を「人生会議」として、国民に広く周知することを目的としました。

統計からみえるアドバンス・ケア・プランニングの重要性

少し古いデータですが、「平成25年版 高齢社会白書(内閣府)」によると、「治る見込みがない病気になった場合、どこで最期を迎えたいか」についてみると、「自宅」が 54.6%で最も多く、次いで「病院などの医療施設」が27.7%という結果になりました。人生最後の時間を住み慣れた場所である自宅で過ごしたいと考える人が過半数を超えることになります。「終末期においては約70%の患者で意思決定が不可能(Silveira MJ, NEJM 2011 )」ともいわれているため、現状では本人の意向にそわない形で入院しているケースが一定数あるのかもしれません。

患者の意思決定が尊重された背景

医師による一方的な治療方針の決定(パターナリズム)からの脱却として、インフォームド・コンセントの考え方が浸透してきました。患者さんの意思がわからない場合には、最期をどうするか患者さんの代わりにご家族が考えなくてはならなくなりません。よりよいエンド・オブ・ライフを実現するためには、将来にうける医療行為に対する意向を判断能力があるうちに意思表示しておくことの重要性が認識されるようになりました。そこで登場したのが、アドバンス・ディレクティブ (事前指示:AD)です。
意向の中には臓器提供意思表示(ドナーカード)、DNAR(蘇生の可能性が低いときに無理に蘇生措置をしないこと)や、代理意思決定者の指示などが含まれます。
自分ひとりで将来のことを予想することには限界があり、法的文章であるために意向の変更が反映されにくいという問題点がありました。そのため、実効性の乏しいADの普及は進みませんでした。
アメリカでは1970年代に、国を挙げてADが推進されましたが、その後に実施された比較研究ではADの導入が患者・家族の満足度に差異がないことが明らかになりました。
そこで登場したのがACPです。ACPでは、ACPでは、本人・代理決定者・医療者が、「話し合うプロセスの重要性」が示されました。

ACP実施のステップ

ACPを実施するタイミングは、人生の最終段階に行うものから健康な人がライフイベントに合わせて実施するものがあるといわていますが、以下のステップを参考にするとよいでしょう。

① 希望や思いについて考える
今の考え方を示しておくことで、将来家族などがあなたの気持ちを考えて判断するのに役立ちます。人生の目標や希望、その思いや自分の中で譲れない価値観などを考えてみるとよいでしょう。

② 健康について学ぶ
医師へ健康について相談することも大切です。病気がある場合には、将来どうなるか、どういう治療ができるのか、その治療でどうなるのかを学びます。

③ 代わりに伝えてくれる人を選ぶ
予期しないできごとや突然の病気で、自分の希望を伝えることができなくなるかもしれません。
自分で判断できなくなった時に、あなたの代わりに伝えてくれる人 (代理人)を選んでおくことが大切です。

④ 希望や思いについて話し合う
医療や生活に関する希望や思いを家族・代理人や医療者と話し合います。しっかり話し合うことで、お互いの理解も深まります。一度の話し合いではなく、複数回行い決定したことへ修正を加えながら柔軟に決定します。

⑤ 考えを書きとめる
話し合ったことを記録として残します。希望や思いは時間とともに変化し、健康状態によって変わる可能性もあります。

ACPのメリットとデメリット

ACPを実施することで、本人の自律性の向上や医療従事者や家族とのコミュニケーションの向上、家族の負担の軽減などのメリットが考えられます。一方で、実施するタイミングの難しさや本人・家族に精神的な苦痛が伴う可能性、将来の予想の難しさという懸念があります。
しかし、法的な規定はありませんが、ACPにおいて作成される書類は、医療施設や介護施設では内容通りに行われるべきものとしての一定の効力を持ちます。

ここまで、ACPについて解説しました。
ACPの一番の課題は社会全体で知名度をあげる必要性があるということです。厚生労働省が実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査(2017年)」によると、ACPについて「よく知っている」と回答した人の割合は、「医師」が22.3%、「看護師」が19.9%、「介護職員」が7.6%、「一般国民」は3.3%という結果でした。この結果から、医師や看護師にもACPを知らない方が多いことがわかります。そのため、冒頭でお伝えしたように、「人生会議」と称して、国や厚生労働省が普及・啓発活動を進めている途中です。
皆さまもこの機会に、ご自身やご家族の死への向き合い方について、少しでも考えてみてはいかがでしょうか。


著者:伊藤 直
精神科専門医
医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長
一般社団法人 健康職場推進機構 理事長


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