企業におけるメンタルヘルスの対策は様々な視点から多くのことに配慮する必要があります。 日頃から従業員の小さな変化に気づけることは重要です。心理的安全性が確保された職場では、従業員のワーク・エンゲージメントも上がり、生産性の向上や離職率の低下など企業に多くのメリットを与えるものとなります。企業とメンタルヘルスの関係性について考えていきます。
事業主には「業務による健康上の問題が労働者に起こらないように配慮する」安全配慮義務が課せられています。(労働者への配慮(労働契約法5条):使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をする。)
メンタルヘルスケアを行うことで組織の生産性の低下を防ぎます。東京大学の調査によると、体調不良の人は健康な時と比べパフォーマンスが低下し、体調不良のまま仕事を続けることで社員1人あたり最大約150万円/年の損失になるようです。企業イメージの向上や社会的責任を負っていることからもメンタルヘルスケアは重要といえます。
平成29年の労働安全衛生調査では働いている約6割の人がストレスを感じているという結果が明らかになりました。その内訳は、仕事の質・量が60%程度、仕事の失敗、責任の発生等・対人関係(セクハラ・パワハラを含む)が30%程度となっていました。
メンタル不調のなかでもうつ病は誰にでもかかる可能性のある病気といえます。
職場で働く仲間に以下のようなことがみられる場合には注意が必要です。うつ病のサインは自分では気づきにくいものですので周りの人が気づいてあげることも大切です。
声かけをするときには注意しなくてはならない点があります。
「気持ちの問題だよ、気合でのりきろう」、「期待しているから頑張ってよ」などの励ましや、「みんな辛いなか頑張ってるんだよ」のような非難されたと誤解される表現は避けたほうがよいでしょう。心配な気持ちを伝え傾聴することが重要です。
うつ病の症状が悪化した際に将来を悲観して仕事を辞めることを考える人もいます。症状が回復することで考え方が変わることもあるので、重要な決断は病気が回復してから行うよう促すことも大切です。対応することに不安がある場合は、会社の産業医・看護職・心理職などの産業保健スタッフや、人事担当者、社外の専門相談機関などに相談してみてもよいでしょう。
ストレスが高まってきたり、蓄積したりすると、身体面、心理・感情面あるいは行動面にさまざまな変化が現れます。
これらを早期に察知することがうつ病を予防するうえで重要です。 心身の不調が続いているときには、最近の生活を振り返ってみると良いかもしれません。
話しを聞いてもらうということは、聞いてもらえるような人間関係を構築しておく必要があります。 相談することは簡単なことだと思っていても、いざ悩みを抱えると誰に相談して良いのか分からくなることもあります。社内に限定せずに話しを聞いてもらえる関係性を作っておくことは、自身のメンタルを安定させるためにも重要です。自分ひとりで解決しようとして、ネガティブな感情をためこむことで自分を追い込んでしまうこともあります。相談できるスキルを身に付けてみてください。
健康な状態とは身体だけではなく、心身ともに健全な状態でなくてはなりません。
「セルフケア」という言葉をご存じでしょうか。セルフケアは、労働者自ら心の健康の保持増進のために行う活動のことで、自分のストレスに気づくこと、ストレスやメンタルヘルスについて知識を持ち正しく理解すること、自発的に周囲に相談することなどがあげられます。
そもそも、ストレスとはどのようなものなのでしょうか。
ストレスを簡単に言うと「刺激を受けた時に生じる、心や体の歪み」です。正確にはその原因となる刺激や出来事をストレッサーといい、ストレッサーに適応しようとしてこころや体に生じた様々な反応をストレス反応と言います。
ストレッサーの種類:対人関係、睡眠不足、騒音、病気など
ストレスには「良いストレス」と「悪いストレス」があるといわれています。ストレスと聞くと、悪いものですべて解消しないといけないと思いがちですが、一概にそうとうは言い切れません。 実は、暑い・寒いという環境条件や、会社・学校・近所付き合いなどの人間関係のように、私たちが生きていく上で、必然的に出くわしたり、起こったりしている出来事や状態でもストレスを受けているのです。
良いストレスの例:
夢、目標、スポーツ、よりよい人間関係など向上心を奮い立たせてくれたり、励みとなったり、自分の人生を生きていく上で成長の原動力となるような適度な刺激
「良いストレス」は人間に必要なのです。仕事を任された時や何か新しい事にチャレンジする時、それを「良いストレス」と捉える事ができるようになりたいものです。
しかし、時には「逃げないといけないストレス」もあります。心身が病気になりそうなストレス、解消できないストレスに長期間さらされると、自分の脳がダメージを受ける可能性もあるので、不眠、食欲不振、体重減少、意欲低下などの症状が表れる前にストップをかけられる勇気が必要でしょう。
メンタルヘルスにおけるセルフケアの一番のポイントは、前述した通り、自分自身を知ることです。メンタルヘルスを維持するためには、ストレスが溜まった時のサインに気づくことが重要です。サインは人によってもさまざまです。仕事が忙しい日々が続くと、帰宅してからも些細なことでイライラしてしまったり、周りの人に過度にあたってしまう人もいます。 または、悲観的になったり、涙もろくなったりする人もいるかもしれません。まずは、自分自身のサインを知り、そのサインを見逃さないことが重要です。サインが現れたときには、あなたにあった方法でストレスを解消してあげられるよう、できるだけ多くのストレス対処法を身につけておいてください。
「働きやすい」とは、どのような職場を思い浮かべるでしょうか。それぞれ価値観は違いますので、「理想の職場」の定義は千差万別です。皆さまがお勤めの会社の職場環境もあわせて考えてみてはいかがでしょうか。
メンタルヘルス不調を未然に防止するには、労働者本人がセルフケア(自分で自分のケアに努めること)を進めるとともに、会社としても職場の課題を洗い出し、職場環境の改善に取り組むことが重要です。
・ 健康職場改善の例:職場の物理的レイアウト、労働時間、作業方法、組織、人間関係などの改善
職場環境改善のメリット(費用便益)を検討した研究では、職場環境改善の実施にかかる費用が1人当たり7,660円なのに対し、実施の結果生産性が向上して得られる利益が1人当たり15,200円と、費用便益が約2倍と見積もられています。職場環境改善の実施は、労働者のメンタルヘルスの改善と生産性の向上の両方に効果が期待できる活動です。
厚生労働省の職場環境改善の手引では、職場環境改善の計画立案を、誰が主体となって実施するかによって以下の3つに分類しています。
この3つが職場環境改善の全てではありませんが、事業場で職場環境改善をはじめようとする時、どの方式をとるか考えると導入しやすいでしょう。
具体的に職場環境改善を進めていくためのポイントをお伝えします。
ストレスチェックの結果を集計・分析することにより、高ストレスの労働者が多い属性や事業場、部署が明らかになります。
業務内容や労働時間など他の情報と合わせて、集団分析の結果、事業場や部署として仕事の量的・質的負担が高かったり、周囲からの支援が低かったり、職場の健康リスクが高い場合には職場環境の改善が必要と考えられます。
集団ごとの集計・分析及びその結果に基づく対応は、事業者の努力義務とされていますので、積極的に実施しましょう。
衛生委員会は、労使が一体となって審議する重要な場です。議題の中に既に顕在化している職場の課題や、労働者から出た意見などを盛り込み審議を重ねることで、その他の潜在的な課題も見えやすくなります。
職場環境改善において、管理監督者および労働者向けの研修は有効な手段の一つです。管理監督者には、集団分析結果の報告や、職場環境改善のための方法の紹介などの他、ラインケアの機能を高めるために、不調な社員の見つけ方、声のかけ方などの内容も研修に含めると良いでしょう。
労働者が職場環境改善の重要性を理解し積極的に取り組みに参加する土台がある場合は、従業員参加型のワークショップを実施することが効果的です。
厚労省が作成している、職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)は、従業員の参加のもと、仕事の負担やストレスを減らして快適に働くための改善アイデアが盛り込まれていますので、従業員同士によるグループ討議などで利用すると良いでしょう。
職場環境の改善において重要なものがアンケートです。事業者からの目線だけでは、会社の内部で抱える問題は見えにくいこともあるでしょう。せっかく考えた改善策が、従業員の要望とズレていれば余計に状況を悪化させる場合もあります。
そこで、実際に働く従業員から「現場で感じること」「普段思うこと」を聞きだし改善につなげます。
質問項目は、職場の状態、施設や設備への要望、仕事の満足度、福利厚生など職場の状況に応じて検討しましょう。
また匿名性を保って回答できるようにするなど、配慮することが必要です。
2020年6月に施行された、改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)により、ハラスメント相談窓口の設置が企業の義務になりました。(中小企業は2022年4月から)
ハラスメントを含めて、労働者がより声を上げやすい環境の整備を目指すため、社内・社外の相談窓口を開設し労働者に周知することが大切です。
労働者は生活時間のおよそ3分の1を職場で過ごします。その環境が大きなストレスになる場合、労働者が不幸であるだけでなくメンタルヘルス不調や疾病のリスクが高まり、仕事の質や生産性の低下をきたし、ひいては優秀な人材が流出することにも繋がります。 一方で、労働者の声に耳を傾け、職場環境の改善に取り組む会社は、生産性が向上し優秀な人材も流出しにくくなるばかりか、職場への愛着が熟成され人が成長していきます。一つずつ、できることから始めてみましょう。
弊会では企業に合わせた職場環境改善の取組みをサポートしています。
衛生委員会の立ち上げやセミナーの実施、ハラスメント対応の外部相談窓口の設置など多岐にわたってサポートさせていただきますので、ご検討の際はお問合せください。
会社や家庭等あらゆる場面において、主要な役割を担っているのが働き盛り世代です。
職業生活におけるストレス等の原因の第一位は、職場の人間関係の問題となっています。(「平成24年労働者健康状況調査」(厚生労働省))
また、業務による心理的負荷が原因で精神障害を発症、あるいは自殺したとして労災認定が行われる事案が近年増加し、社会的にも関心を集めています。
自殺者総数が2万人を超えているなかで、労働者の自殺者数も7千人前後で推移しており、職場のメンタルヘルス対策の重要性が年々増加しています。
メンタルヘルスケア対策の実施にあたっては、経営層から一般社員までの全員がその重要性を理解する必要があります。
全従業員の理解を得るためには、トップメッセージとして表明するなど経営層が率先してメンタルヘルス対策を推進することが望ましいと言えます。
会社としてメンタルヘルスの取り組みを行っていることは、対外的にも企業のイメージアップにも繋がります。
弊会では、企業ごとに専任担当者をお付けして、衛生委員会の立ち上げからサポートさせていただきます。従業員数に関わらず、産業医サポートをお受けしておりますのでお気軽にご相談ください。
厚生労働省が推奨している、4つのメンタルヘルス対策をご紹介いたします。
従業員が自分自身で行うケアを指します。
ストレスやメンタルヘルスを正しく理解し学ぶことで、自らのストレスに気付き予防対処することがある程度可能になります。
また、ストレスチェックによる判定や、弊会が独自に開発した生活習慣による心の乱れや性格傾向のアドバイスを受けることのできるライフリサーチテストで、自身の心身の状況を把握することも有効です。
部下を持つ管理監督者が行うケアのことを指します。
管理職は日ごろから部下の悩みなどの相談に応じながら、必要に応じて情報提供や産業医との面談を勧めることが大切です。また、職場に目を配り部下の異変に早期に気付いて症状が軽い段階での対処やメンタル不調の部下の職場復帰への支援も重要です。弊会では管理職向けのラインケアセミナーも実施しております。
50名以上の従業員がいる事業場には産業医の選任義務があります。
専門的な知識を持つ産業保健スタッフと人事総務部門のスタッフなどが連携して、現場からの情報を専門知識から解釈し企業内のメンタルヘルス対策の企画立案を行います。
メンタルヘルスケアには専門知識が必要なため、専門的な機関のアドバイスを取り入れたほうが安全かつ効果的です。産業医にもそれぞれ専門があるため精神科や心療内科以外の先生だと、メンタル領域の対応ができないという場合があります。 事業場内の産業保健スタッフと外部の専門機関の協力体制を取ることで、より効果的な施策を実施することが可能になります。
今後、働く人と組織におけるメンタルヘルスの課題はより複雑化するでしょう。そのため、労働者自身がストレスに気づき、対処法を身に付け実践することが、メンタルヘルスケア対策の基本であり、企業が従業員にその機会を与え、メンタル不調者を未然に防ぐ仕組みづくりが必要です。 よりよい職場環境への第一歩として、メンタルヘルス対策を検討されてみてはいかがでしょうか。企業がメンタルヘルス対策に取り組む姿勢こそが、従業員のワーク・エンゲージメントの増進に繋がると考えます。
働く人にとっては、日々仕事をしていると辛いことや困難なこと、やる気が湧かず仕事がはかどらないこともあると思います。一方で経営者にとっても、従業員にはいつも元気でいきいきと働いてほしい、仕事を通して成長し、会社の戦力として活躍してほしいと願う気持ちは共通してあるものです。
どうすれば従業員がいきいきと元気に働く、活気ある職場環境をつくることができるのでしょうか。
働く人の心の健康度を示す概念で「ワーク・エンゲージメント」という言葉があります。
仕事に対しての「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素から構成され、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態のことをいいます。
ワーク・エンゲージメントの高い人は、仕事に誇りややりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ていきいきとしている状態にあるといえます。
ワーク・エンゲージメントという言葉は、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の研究で有名なオランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ(Wilmar B.Schaufeli)教授によって提唱されました。
「バーンアウト(燃え尽き症候群)」は、仕事などに一生懸命没頭したにもかかわらず、本人が期待した結果が得られないといった不満感や疲労感により、あたかも「燃え尽きたように」意欲を失ってしまう状態のことを言い、ワーク・エンゲージメントと対極の意味にあります。
仕事に対する考え方には大きく分けて3つあるといいます。自分の仕事をどう捉えるかは個人の自由ですが、それによってモチベーションも異なります。
その名の通り、ご飯を食べるためや生活をするために働くことをライスワークといいます。やりたい仕事か否かというわけではなく、お金を稼ぐために働くというスタイルといえます。
また、世の中の多くの人はライスワークをしています。自分の時間を切り売りするという意味合いが強く、一般企業での勤務や学生が行うアルバイトなどがこれに含まれることが多いといえます。
ライスワークでは、仕事と趣味やプライベートの時間に明確な線引きをされており、それがモチベーションに繋がっています。
自分の好きなことや、やりたいことを仕事にしていることをライクワークといいます。YouTubeのCMで「好きなことで、生きていく」とユーチューバーと呼ばれる人が出演しているものがありますが、これはまさにライフワークをしている人たちといえるでしょう。 ライスワークと比較すると、自分が好きな仕事であるため、仕事に対するモチベーションは当初から高い場合が多いといわれています。
志や信念を持って、自分の使命と思える仕事をして働くことで、生涯をかけて取り組んでいくことをライフワークといいます。これは仕事とプライベートの区別がなく仕事ができるタイプであり、名前の通りその人にとっての「天職」といえるものです。相手に何かを与えることで、人生の充実感を感じ、他人にも良い影響を与えたいと考えている場合が多いといえます。
モチベーションと密接な関係があるライクワークに対し、情熱がとどまることなく湧き続けるライフワークですから、自分が心から取り組みたいと思う活動がそのまま仕事になっていることがその状態といえます。
そこに収入が発生していなくても、自分が一生ものの仕事にしたいと思っていることに取り組むことがライフワークなのです。
前述した3つのワークの中では、好きなことを仕事にしていることから最も遠いライスワークの場合でも、家族を養うためや自立して生活していくために働いているということは立派なことです。
例えば、将来ライフワークをするために現在はライスワークをしているということもあって良いのです。仕事とプライベートを分けることが、生きていく上で心地よい人も大勢います。
自分の生きがいと言えるものを仕事にできる人はライフワークといえますが、どんな仕事も社会に出て働くことで多くの学びがあります。趣味や特技に直結しない場合でも、自分の仕事を使命と捉えられることでライフワークにもなり得ます。
世界各国で比較した調査によると、日本は「従業員エンゲージメントが高い社員」の割合がわずか6%であり、米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139ヵ国中132位と最下位レベルであるという結果が出ました。やる気に満ち溢れ、熱意をもって仕事をする人が少ないということがわかります。
これまでの研究で、ワーク・エンゲージメントが高い人は、不安、抑うつ、イライラ感などのストレス反応や不定愁訴が少ないことが明らかになっています。また不眠症状や目覚めにくさ、倦怠感や日中の眠気が少なく、睡眠の質も良くなると言われています。
平成医会独自のテストプログラムである「ライフ&ワークリサーチ」による分析においても、ワーク・エンゲージメントが高い集団は、ストレスチェックの結果で、高ストレス者の割合が低く、健康群の割合が優位に高い結果となりました。つまり、仕事に誇りややりがいを感じ、いきいきと満足感をもって仕事をしている人たちは、仕事を重荷に感じず、心身の不調も起こりにくいのです。
カナダの心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)は、ワーク・エンゲージメントを高くする要素の一つとして「自己効力感」という概念を提唱しました。これは自身の有能感や、自尊心、自信、自己を肯定するセルフイメージのことで、幼い頃からの小さな成功体験の積み重ねによって培われます。
では、幼い頃に成功体験が少なかった人は、ずっと自己効力感が低いままかと言うと、そんなことはありません。大人になってからでも自己効力感を高めることはできます。
日常の中で自分なりに目標を立て、それができたら自分を褒める、ということを繰り返し行っていくことで、自己効力感を高めていくことができます。
今の自分にできることを見つけ、目標を達成できるように努力する、その日々の積み重ねが、満足度の高い、充実した人生を創り上げていくのではないでしょうか。
会社として従業員個人を尊重し、キャリアアップや成長の機会を与えたり、会社が目指す方向性や業務プロセスを明確にすることは会社に対する従業員の信頼を強めるなど、従業員のエンゲージメントを高めます。
一方でまた従業員も、元気にいきいきと働きより豊かな人生を送っていくために、自身の仕事のモチベーションは何であるか、自分が大切にする価値観を見つめ、自己を肯定しながら目標に向かって努力することも重要です。その両輪がバランスよく回ってこそ、皆にとって働きやすい職場がつくられていくのです。
もし、自分の働き方や現在の働き方に満足できていないことがあるとすれば、それは何なのか考えてみることは大切です。自身で考えてみて行動することで、現状の働き方を続けながらも見えてくることは多くあると思います。良い働き方と悪い働き方というものはありません。大切なのは自分が納得した形で働き、人生を歩んでいくことです。様々な価値観の人がいる中で私たちは生活していることを忘れてはいけません。
心理的安全性が注目を集めたのは米グーグル社が2012年から約4年かけて実施した大規模労働改革プロジェクト、プロジェクトアリストテレス(Project Aristotle)がきっかけでした。心理的安全性とは他者からの反応に怯えたり、羞恥心を感じたりすることなく自然体の自分をさらけだすことができる状態のことをいいます。今回は職場内で心理的安全性を高める方法やそのメリットについて解説します。
心理的安全性とはサイコロジカル・セーフティ(psychological safety)を日本語に訳したもので、心理学用語の一つです。ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授が1999年に概念を提唱しました。心理的安全性とは他者からの反応に怯えることなく自然体の自分をさらけだすことができる状態です。心理的安全性が保たれた組織では、離職率の低下や生産性の向上、社員のモチベーション向上といった多くのメリットがあります。
私たちの組織やチームが心理的安全性を担保された状態に近づくにはどのような取り組みが効果的なのでしょうか。様々な視点から考えてみます。
日頃から職員同士でコミュニケーションを取ることが重要です。同僚だけではなく上司や部下との間で相互理解を深めるとさらによいでしょう。
具体的な方法として1on1ミーティングがあります。これは上司と部下で行うフランクな雰囲気の中で行われる個人面談です。これを繰り返すことで、「会社は自分の意見を聞いてくれている」「上司は自分について理解してくれている」という安心感がうまれます。
会社の方針やルールが曖昧な状況では、一部のメンバーによる独裁や暗黙の了解という状況が起こりやすく、同調圧力によって発言内容が制限されることが少なくありません。そのため、職場内での共通認識をもつことが大切です。目標や方向性をしっかりと定め、不文律ではなく明文化された規則や規律を中心に扱うことや定められた項目を従業員に浸透させることがポイントです。
チームワークを円滑に保ちパフォーマンスを向上させるためには、誰でも皆、平等の仕事量・仕事率が課されるよう配慮する事が重要になります。仕事の目的を明確にして短期目標や長期目標を立てることや仕事量に大きな偏りがある場合はその調整を行うとよいでしょう。
定期的にチームの見直しを図ることが大切です。これはチーム力が変わらず維持されているか、偏ったチームワークが展開されていないか、誰かに問題が大きく降りかかっていないかなどを確認するものです。この点検や見直しは定期的に続けていく必要があるようです。
意思決定に参加させることも心理的安全性を高めるアプローチの一つといえます。意見やフィードバックを求めることは相手への尊重を示す行為です。しかし、自分と異なる意見をいわれたときに否定的な反応をしてしまうとマイナスな結果をもたらしますので注意が必要です。
心理的安全性が確保された職場ではどのようなメリットがあるのでしょうか。
心理的安全性があることで、マネジメント層以外も現状をより良くしていこうという前向きなマインドに変化していくものです。一方で心理的安全性が低い組織は、理解してもらえないから言っても無駄といった状態に個々が陥りやすくなります。自分の考えを伝えるときに、発言が否定されるという不安がないため個人の意見やアイデアが多く集まる傾向にあるのです。
心理的安全性が保たれた職場は仕事がしやすく居心地もよいため離職率も低いようです。仕事にやりがいがあり自分の能力を活かしながら業務に取り組めるため今の会社で長く働きたいと思うのです。従業員が仕事にやりがいを感じることで主体的な行動が増えていきます。
心理的安全性は、職場の仲が良いことや優しく接していればいいということではありません。優しい組織や仲がよい職場ばかりにフォーカスを当ててしまい、そのこと自体が目的になってしまうと円満な関係を壊すことを恐れるあまり、相手へのフィードバックを遠慮したりしてしまうことがあります。
心理的安全性は組織やチームの生産性を大幅に向上させる優れた要素ですが、取り扱い方を誤ってしまうと思わぬ損失を被ることがあるので、意識改革や現場管理も同時進行で行わなければなりません。
メンバーに対して一定の責任や個人目標を与え、上司やリーダーの視点から適切な管理を行うことにより、リラックス状態を維持しながらも公私混同することなく目標に向けて突き進むことのできるのが理想的な状態です。
心理的安全性が高い職場は、従業員のエンゲージメントやパフォーマンスの向上にも影響を与え組織において多くのメリットを得ることができます。従業員にとってはストレスの緩和などメンタルヘルスの面でも利点があるといえます。心理的安全性は一人でも不安を感じている人がいれば保つことはできません。不安要素を取り除く作業をしてからがスタートラインともいえるのです。
離職率や生産性、健康経営など様々な人事課題と結びついています。これを機会に、皆さまの職場を振り返りながら心理的安全性を意識した職場づくりを行ってみてはいかがでしょうか。